第38話 沈黙を破るノック
絶対にここにいる。
昔から仕事の無いときは家に籠って、編集などの作業に休日を費やしていた。
あの時と変わってはいない。
そう確信しているのは、あの脚本を見たからだ。
真実を確かめたい。
その為にわざわざここまで来た。
沈黙は許さない。
今度こそすべてを吐かせてやる。
「…………」
私はドアをノックした。
返事がない。
しばらく待ってからまたドアを叩く。
まさか不在なのか?
何呼吸か待って、また叩こうとした時、カチャっと鍵を開ける音が響き、ドアノブが回ってドアが開いた。
「…………千景なのか?」
有馬航生は、扉の奥にいた。
薄手のグレーのスウェットに、黒いTシャツ。
昨日まで舞台の稽古をしていたとは思えないほど、力の抜けた格好だった。
顎にはわずかに無精髭が浮いている。
稽古場ではいつもきっちり剃っていたのに、今日は休日だからか、そのままらしかった。
有馬は、ほんの一瞬、目を見開いた。
「……なぜ、ここに?」
低く、戸惑った声だった。
当然だ。
今の私と彼の関係を思えば、こんなふうに訪ねてくること自体、あり得ないはずなのだから。
「…………少しだけ、話があるの」
「…………」
それでも有馬は、私から視線をそらさなかった。
昔と変わらず、感情の機微を探るように私を見ていた。
「あがっていい?」
「ああ」
有馬は言葉短くそれだけ言って、先に部屋へと向かった。
靴を揃えて、玄関から居間へと向かう。
奥は板の間で、広めのテーブルの上には大きめのノートパソコンが置かれている。
書類が散乱している。それ以外には生活感が感じられない。
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