第26話 再び、舞台へ

 本格的な練習期間に入った。

 私は照明監修という立場ではあったけど、有馬への復讐(当て付け)とは関係なく、満足のいく結果になるまで、何度も同じ場面を繰り返していく。

「す、すみませーん」

 主人公役の朝比奈玲奈は、戸惑った顔で謝る。

 特に間違いがあったわけではないが、彼女の演技には『表情がない』。

 有馬がリテイクの指示を出しても、彼女にはそれがなぜか分かっていないようだった。

 私だったら、すぐに有馬の意図を察して、それを取り入れるのに……。

「…………」

 有馬はすぐ近くで、彼女の演技をじっと見ている。

 サングラスをしたまま……相変わらず、何を考えているか分からないような仕草で……。だけど、私には有馬が、心の中で彼女の未熟さにため息をついているのが分かった。

 でも良かった……もし朝比奈玲奈が噂通りの天才なら、計画の一部を修正しなければならない所だった。

 私は心の奥でほくそ笑む。

 それはそうと……。

 二回目……三回目‥‥同じシーンを繰り返していく。けれども、全く同じ演技。

 そんな事も分からないの?

 私だったら……。

「…………」

 慧が私に頷いて、無言の合図を送ってきた。私もそれに首を静かに縦に振って返す。

「監督……ちょっといいですか?」

 慧は座っている有馬の横に立って、静かに耳うちする。

 小声で話すその内容は他の人には聞こえない。

 けれど、それは計画の一端。

「……そうだな」

 有馬は私に顔を向けた。

「千景……朝比奈の今のシーンを代わりに演じてみろ」

「私が?」

 驚いた顔をしたけど、これは演技。

 その鋭い眼光で、それを見抜いた所で、あなたはそれを否定するような事はしない。

 憎い相手だけど……あなたの事は良く知ってる。

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