サンタクロース
猫又テン
クリスマス
ぼくの家にはサンタクロースが来ない。
ずっとそうだった。一度だって来たことがない。
お父さんとお母さんからもプレゼントを貰ったことがなかったから、ぼくにとってクリスマスというのはただ、イルミネーションの光と、それに虫のように群がる人々がわずらわしいだけの日なのだ。
どうしてぼくはプレゼントを貰えないの?とお母さんに聞いたことがある。そうしたら。
「お前は悪い子だから。だから、プレゼントを貰えないの」
と言われた。
どうしたらいい子になれるんだろう。
ずっとずっといろんなことを試して来たけど、ぼくはまだ正解にたどり着けていない。
『今日は、夜から雪が降る模様です。
ロマンチックなホワイトクリスマスをお楽し』
ぼくはテレビの電源を切ると、ランドセルを背負った。
今日はクリスマス。みんな大好きで、ぼくは大嫌いな日。
いってきます。
扉を開ける前にリビングに声をかけるが、返事はない。誰もいないから。
クツを履き外に出れば、一軒家の屋根やへいに、色とりどりのイルミネーションがかかっている。
中にはサンタクロースやトナカイの形をした物もあった。
どうしてみんな、この時期になるとバカみたいに飾りつけるんだろう?
ぼくは前に、動物図鑑で読んだクジャクをなんとなく思い出した。
あいつは目立ちたがりや。町のみんなもそうなのかも。
石ころをけ飛ばす。今日は学校に行きたくなかった。ぼくの足は、学校に近付くほど重くなる。
こういうのって、ユウウツって言うんだって。
きっと今のぼくが吐き出すため息は、ブロックへいのブロックより重たいはずだ。
どうして冬休みなのに学校に行かなくちゃいけないのか。学童があるからだ。
お母さんもお父さんも仕事だから、ぼく一人で家に残っちゃいけないんだって。
ぼくはそんなの気にしないよ。
って言ってみたことがあるんだけど、お母さんに怒られた。
「わざわざお金払って行かせてるのに、文句言うの?」って。ぼくが頼んでるわけじゃないのに。
でもそれからぼくはなにも言えなくなってしまった。お母さんは一度怒るとずうっと怒っているし、ぼくが反抗的だってお父さんに言いつけるから。
お父さんは、怖い。
「ケンタくん、メリークリスマス!」
学童に行くと、先生がそう言ってぼくを出迎える。
室内はクリスマス仕様の飾り付けでいっぱい。クリスマスツリーとかクリスマスベルとか、とにかくクリスマスって名前が付きそうな物であふれていた。
今日だけの特別なおやつ。みんな、自分はサンタクロースからなにを貰ったのかとか、お父さんやお母さんからこれを貰うんだとか、楽しそうに話していて。
ぼくは一人ぼっちで、その光景をながめてる。
「ケンタくん、絵本読んでるの?」
そうだよ先生。だから、ジャマをしないで。
「今日はクリスマスだねぇ。ケンタくんは、サンタさんから何をもらうの?」
何もないよ。ぼくは悪い子だから、サンタクロースはうちに来ないんだ。
なんて口に出せば、先生はどんな顔をするんだろう。
そんなことを考えてしまうから、ぼくは悪い子なのかもしれない。
クリスマスの日の学童は、嫌いだ。
仕事が終わったお母さんが迎えに来て、ぼくは車に乗って帰った。
嫌な場所から帰ってるのに、それでもぼくの気は晴れない。そもそも、好きな場所なんてないんだ。
「今日は勉強したの?」
お母さんが運転をしながらそう聞いてきて、うんってぼくは答える。うそだけど。
聞いたのは自分なのに、お母さんは興味なさそうだった。
「中学受験も近いんだから、ちゃんとやんなさいよ」
わかってるよ。適当に相づちを打って、ぼくは窓の外をながめる。
イルミネーションがピカピカ。人がわらわら。
毎年やってるのに、みんな初めてのことのように、飽きもせず笑っている。
ぼくだって、サンタクロースが来てくれれば笑えるのに。
サンタクロースはどこに住んでいるのか調べたことがある。フィンランドだ。村があるんだって。
会いに行って、プレゼントをくださいって言いたいけど、ぼくはまだ子供だから、一人では海外に行けない。
お父さんとお母さんは、ぼくがそんなバカなことをしたいって言ったら、病院に連れて行くかも。
大人になったら一人でも行けるけど、そもそも大人になったらサンタクロースからプレゼントを貰えなくなってしまう。
やっぱり、ぼくがいい子になるしかないのかな。
ふと、大きな看板が目に入った。オモチャ屋の看板だった。
ぼくにはずっとほしい物があって、サンタクロースには毎年それを頼んでいる。
あのオモチャ屋にはそれがある。お母さんとお父さんに内緒で、こっそり見に行ったこともある。
のどから手が出るほどほしい、あこがれの物。
あ、そうだ。
ぼくは思いついてしまった。天才的だった。どうして今まで思いつかなかったんだろう?
サンタクロースが来ないなら、ぼくがサンタクロースになればいいんだ。
例え自分からでも、プレゼントを貰えたらうれしいだろう。
ちょっと寂しい気もするけど、でもやらないより絶対いい。そうに決まってる。
ぼくもようやく、大嫌いなクリスマスを、みんなと同じように好きになれるんだ。
ぼくはもう、この計画を実行することに夢中だった。やるなら今日中だ。クリスマスにプレゼントを貰うことに、意味があるんだから。
夕飯の味は覚えてなかった。ちゃんと風呂で身体を洗ったのかも。
お父さんがなにか言っていたけど、それもあいまいに返事した。とにかく、ぼくはプレゼントがほしかった。
買うための金はあった。
「使わないで取っておきなさい」ってお母さんに言われてたお年玉だ。
ぼくの今までの人生でためてきた六万円。いくら必要だったか忘れてしまったから、丸ごと持っていくことにした。
真夜中、お母さんとお父さんが寝てから、ぼくは玄関のカギをそっと開けて、オモチャ屋に向かった。
外は息が白くなるぐらいさむくて、雪がパラパラと降っていた。
アスファルトの上にうっすらと雪が積もって、粉砂糖みたい。
貯金箱をかかえて、ぼくは走った。
早くしないとお父さんとお母さんが起きてしまうかもしれないし、警察の人に見つかったらきっと怒られてしまう。
鼻がつめたかった。息を吸うと肺がつめたくなった。手先も凍ってるみたいで、なんども貯金箱を落としかけた。
でも、ぼくは初めてクリスマスの日に楽しいって思った。
ずっと、ゲーム機がほしかった。
「今日マサトの家で昨日の続きやろうぜ!」
放課後になると、クラスの男子は流行りのゲームに夢中だった。
みんな持ってたから、毎日のように誰かの家でみんな遊んでる。
ぼく以外の、みんなが。
みんなニコニコ。ぼくは、なにもない。
みんなは毎日遊んで、ぼくは毎日勉強。
せめてみんながなにを話しているのか、わかればいいのに。ちっともわからなくて、おもしろくない。
「あいつ、いつも一人だよな」
「まぁいいじゃん。ほっとこ!
それよりさぁ、見てよおれのデータ!昨日夜更かししてクリアしたんだぜ!」
ねぇお母さん、ぼくもあれほしい。
「は?何言ってんの?今の状況分かってるの?馬鹿なの?
受験頑張るって言ったよね?お母さんとお父さんが何の為に苦労して働いてると思ってるの?ねぇ、ケンタはそれ全部無駄にするの?」
ちがう、ちがうよお母さん。そうじゃないんだ。ただ少しだけでいいから。
「ケンタ、こっちに来い」
お父さんちがうの。ぼくはあなたたちに逆らいたいんじゃないんだ。お願いだから。
ぼくを。
「お前、何をしたのか分かってるのか?」
オモチャ屋は、開いてなかった。
よくよく考えれば、わかったはずなのに。深夜には開いていないって。
ぼくがいないことに気づいたお母さんが、お父さんを起こしたらしい。
ぼくがトボトボと家に帰ると二人は起きていて、ぼくを待っていた。
ぼくはバカだった。悪い子なんだ。
だから、お父さんもお母さんもこんな目でぼくを見る。
「この金、使おうとしたのか?
言ったよな。大学に向けて貯金しろって」
ごめんなさいお父さん。ごめんなさい。
お父さんやめて、痛い。やだ。
「テストの点も悪い。非行に走る。何の為にお前のこと育てたと思ってるんだこの穀潰し」
なぐ、らないでお父さんごめんなさいもうしないです。ごめんなさい、ごめんなさい。
「ごめんなさいじゃないんだよ。うるさい。
馬鹿なお前はこうでもしないと分からないだろ」
お父さんは、いつもこう。
ぼくはお父さんが怖くてふるえてしまう。だから、お母さんの言うことも聞くしかない。
だって、お母さんはぼくのことをすぐお父さんに言いつけるから。
ねぇ、ぼくほんとはしってるよ。
実は、サンタクロースはいなくて、世の中のお父さんやお母さんが、サンタクロースのふりをしているだけだって。
だからぼくはもうプレゼントを貰えない。
ぼくのお父さんとお母さんはぼくのことが嫌いだし、ぼくのサンタクロースはぼくのことを悪い子だって思ってるから。
鼻からタラリと、赤色がたれてきて、ぼくの服を汚してく。
赤い服だ、サンタクロースみたい。
ぼくは、サンタクロースになれないのにね。
サンタクロース 猫又テン @tenneko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます