BL漫画を隠してたらクラスの陽キャにバレた

山椒王尾

第1話

終わったと思った。


 昼休み、誰もいないと思って開いたロッカー。

 その奥に隠していたはずのBL漫画を、俺はうっかり床に落とした。


「――あ」


「え、なにそれ」


 声。


 振り向いた先にいたのは、クラスの中心人物、神崎だった。

 明るい、うるさい、友達多い。

 俺とは一番遠いタイプの人間。


「ち、違……」


 慌てて拾おうとした、その瞬間。


「BLじゃん」


 即バレ。


 死んだ。


「いや、その、これは……」


「へー。そういうの読むんだ」


 引かれる。

 笑われる。

 そう覚悟したのに。


「表紙、この作家だよね。有名じゃん」


「……は?」


「展開、丁寧でいいよな」


 さらっと言われて、思考が止まる。


「……読んだこと、あるの?」


「あるある。妹の影響で」


 軽い。軽すぎる。


「それ、どのカプ?」


「え?」


「あ、攻め受けどっち派?」


 なんでそんな自然に聞くんだ。


「……内緒」


「いいね。俺もそこ好き」


 笑う神崎。

 距離が近い。


 それからだった。


「新刊出たけど、もう読んだ?」


「その作者、前の方が刺さるよな」


 昼休みの会話が、全部BLになる。


 ある日、女子が神崎に聞いた。


「神崎って、昼いつも何話してるの?」


「BL」


「は?」


「こいつと」


 俺を指さすな。


 女子は困惑しつつ去っていった。


「……言わなくてよくない?」


「別に隠すことでもなくね?」


 その感覚が、眩しい。


 放課後。


「なあ」


「何」


「おすすめ、貸して」


「……返してよ」


「大事にする」


 そう言って、漫画を受け取る手がやけに丁寧で。


「俺さ」


 一瞬、真面目な声になる。


「お前とこういう話してる時間、結構好き」


 心臓が変な音を立てる。


「引かれないの?」


「なんで?」


 不思議そうに首を傾げる。


「好きなもん、語ってるだけじゃん」


 陽キャは、軽くて、真っ直ぐで、

 俺の想定を全部超えてくる。


 BL漫画を隠してたはずなのに、

 いつの間にか、一番近くで一緒に読んでるやつができていた。


 ……ジャンル違いの恋が始まる予感しかしない。

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