無口な親友が俺の前でだけ語彙力バグる件
山椒王尾
第1話
佐倉 恒一は、基本しゃべらない。
出席確認は「はい」。
先生に当てられても「……大丈夫です」。
クラスでは「静かなやつ」「何考えてるかわからないやつ」という扱いだ。
でも、俺の前では違う。
「今日の数学、問題三。選択肢の配置が悪い。あれは引っかかる」
「急にどうした」
「お前、引っかかってた」
当たってるから何も言えない。
放課後、並んで帰るのもいつものことだ。
「コンビニ寄る?」
「寄る」
「何買う?」
「……お前と同じ」
「それもう自分で選んでないじゃん」
俺がツッコむと、佐倉は少しだけ口角を上げる。
その笑い方も、俺しか知らない。
ある日、クラスの女子が俺に話しかけてきた。
「ねえ、ノート貸してほしいんだけど」
「いいよ」
そう答えた瞬間。
「それ、昨日の続き」
横から、佐倉が入ってきた。
「え?」
「途中までしか書いてない。今貸すと困る」
そんな事実はない。
女子は首を傾げつつも去っていった。
「お前、今の」
「事実」
「嘘じゃん」
「……嘘」
素直すぎる。
「でも、嫌だった」
小さく、でもはっきり言う。
「何が」
「お前が、他のやつと話すの」
心臓が一拍跳ねる。
「佐倉、それって」
「わかってる」
被せるように言われる。
「俺が変なのは」
歩くスピードが、少しだけ落ちる。
「でも、無口なのは元からだ」
「語彙力バグってるのは?」
「……お前の前だけ」
夕焼けの中、横顔が赤い。
「言葉、考えなくていいから」
そんな理由、聞いたことがない。
コンビニに着く。
「いつものでいい?」
「いい」
会計を済ませて、袋を渡すと、
佐倉はそれを大事そうに受け取った。
「なあ」
「ん?」
「これからも」
一瞬、言葉に詰まる。
「俺の前に、いろ」
それは命令でもお願いでもない。
ただの事実確認みたいな声。
「……考えとく」
そう返すと、佐倉は少しだけ困った顔をした。
その表情も、俺しか知らない。
無口な親友は、今日も俺の前でだけ、
言葉を落とし続けている。
無口な親友が俺の前でだけ語彙力バグる件 山椒王尾 @mumubb
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