クラス替えで隣になった元ライバルが距離近い

山椒王尾

第1話

クラス替えの紙を見た瞬間、俺は終わったと思った。


 相沢 恒一。

 名前を見ただけで、胃がきゅっとなる。


 中学の頃、何かにつけて張り合ってきた男。

 テストの順位、部活の記録、くだらない意地。

 口を開けば嫌味、視線が合えば火花。


 そんな元ライバルが――

 高校二年、隣の席だった。


「……久しぶり」


 先に声をかけてきたのは相沢だった。

 意外にも、トゲはない。


「まあな」


 それだけ返して、距離を保とうとした。

 ……はずだった。


「シャーペン、同じの使ってるな」


 いきなり、距離が近い。


「え? あ、うん」


「芯、折れやすいやつだろ。替えある」


 そう言って、自然に俺の机に芯ケースを置く。


 ――なんだこいつ。


 昼休み。


「弁当、それコンビニ?」


「そうだけど」


「栄養偏る」


「余計なお世話」


 そう言ったのに、

 次の日、相沢は自分の弁当のミニトマトを一個、無言で俺の弁当に入れた。


「……なにしてんの」


「栄養」


「勝手すぎるだろ」


「昔からだろ」


 そう言われて、言い返せなくなる。


 確かに中学の頃も、

 こいつはやたら俺を見ていた。


 ある日、女子が話しかけてきた。


「ねえ、相沢くんって彼女いるの?」


「いないけど」


 答えたのは、なぜか相沢だった。


「え、本人?」


「邪魔」


 短くそう言って、俺の肩を引き寄せる。


「ちょ、相沢!」


「用あるから」


 女子はポカンとしたまま去っていった。


「……今の何」


 問い詰めると、相沢は少し黙ってから言った。


「昔」


「?」


「お前が他のやつと仲良くすると、ムカついた」


「は?」


「ライバルだからだと思ってた」


 視線が、俺から逸れる。


「でも、クラス離れて」


 一拍。


「話せなくなって、気づいた」


 心臓が嫌な音を立てる。


「隣になれて、正直……嬉しい」


 近い。

 声も、距離も、感情も。


「相沢、それ」


「逃げるな」


 袖を掴まれる。


「もう、ライバルとかどうでもいい」


 真っ直ぐな目。


「今は、隣にいるの俺だろ」


 その言い方がずるすぎて、

 反論なんてできなかった。


 クラス替えで、人生が変わるなんて。

 そんなの、ラノベだけの話だと思っていた。

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