クラスで一番怖い不良が俺の弁当を楽しみにしている
山椒王尾
クラスで一番怖い不良が俺の弁当を楽しみにしている
正直に言うと、俺は関わりたくなかった。
廊下ですれ違うだけで空気が凍る。
机に足を乗せる。先生に呼ばれても動かない。
クラスで一番怖い不良――黒瀬。
そんな黒瀬が、なぜか俺の弁当を食べている。
「……それ、俺の」
昼休み、気づいた時には遅かった。
黒瀬は俺の弁当箱を開け、唐揚げを一つ、無言で口に放り込んでいた。
「……悪い」
低くて短い一言。
怖い。怖すぎる。
なのに――
「うまい」
そう言って、もう一個食べた。
意味がわからない。
「え、ちょ、返して」
「昨日のも、うまかった」
「昨日?」
「卵焼き。甘いやつ」
覚えている。
それも、ちゃんと。
それからだった。
俺が弁当を持ってくる日、黒瀬は必ず昼休みに俺の席の近くに来る。
奪うわけでも脅すわけでもない。
ただ、じっと見てくる。
「……今日、弁当」
「ある、けど」
「それならいい」
いい、って何が。
周りの視線が痛い。
不良と関わるとロクなことがない、そう思っていたはずなのに。
ある日、俺が弁当を忘れた。
「……ない」
そう言うと、黒瀬は一瞬だけ目を伏せた。
「じゃあ、パン半分やる」
そう言って差し出された袋。
コンビニの安いパン。
不良らしくない、雑な優しさ。
「明日は」
黒瀬が、少しだけ声を落とす。
「明日は、あるか?」
「……あると思う」
「楽しみにしてる」
その言い方が、妙に真剣で。
心臓が一拍遅れた。
怖いはずなのに。
距離を置くべきなのに。
――明日は、少しだけ唐揚げを多めに入れよう。
そんなことを考えてしまった時点で、
もう俺は、黒瀬から逃げられなくなっていた。
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