懺悔室・無差別級

超町長

第1話

 とある教会の懺悔室にて。

「実はこのあいだ、友達の家に行く途中でその、犬のフンを踏ん付けてしまって...」

「はい」

「友達の家の玄関がずっと臭いままになってしまったんです。その時以来友達の機嫌が悪いような気がして」

「それは、申し訳なかったですね。でももう大丈夫。歩いていてもとれなかったフンが玄関で取れるとは考えにくい。お友達の家の玄関はきっと既に臭くはなくなっています」

「そう...ですよね。機嫌が悪かったのも気のせいのような気がしてきました。ありがとうございました」

私は神父を務めているため、このように懺悔もとい相談を受けることがある。告解に来た人たちがこのように心を楽にして帰っていくことにやりがいを感じている。


 また別の人が来た。

「実は仕事をばっくれようと思っています」

「どうしてですか」

「日々の生活に疲れてしまって...。ちょっと休んで羽を伸ばしたいと思ったのです。休みを取ればいいとも思ったのですが休める雰囲気ではなくて」

「それは絶対にいけません!このひとでなし!キ⚪︎ガイ!黄泉からの遣い!サタン!ヘビ!」

「ビックリした。たしかに僕が持ちかけた懺悔ですがそこまで言われないといけないことですか?」

「おっと失礼。その通りです。言ってはいけないことでした。しかし自分に鞭打たねばならない時があるということもまた事実であり、それが言いたかったことです。仕事には行きなさい」

「はぁ...。」

「疲れはおっぱぶにでも行って癒しなさい。使えるものは使う」

「おっぱぶて。神父として大丈夫かよ」

「何か言いましたか?」

「いいえ、仕事がんばります。ありがとうございました」

「男はユニコーンです。角の先からエネルギーを集め...」

あの男がちゃんと仕事に行ったのかは気がかりだが、そこまで気にするのは深入りか。


 さらに別の人が来た。

「実は28股をかけてしまいまして」

「タコか!」

「それが言いたかっただけです」

「神のご加護があらんことを」


 近頃の懺悔は様子がおかしい。どうも近隣住民の信仰心がまるごと薄れているような気がしてならない。何が原因だろうか。それさえ取り除けば解決するような原因などというものがそもそもあるのだろうか。こうなっては仕方がない。あの儀式を行う。民の信仰心に疑いを持つたびに考えてきたあの儀式を。


「神父さんが教会の前で黒魔術始めたって」

「最近見かけないと思ったら。黒魔術?」

「うん。もう虫とか動物とか生贄にしてるらしいよ」

「やば」

「あと20種類の女もののパンツとか」

「どうやって手に入れたんだよ」

「ヘビが巻き付いた十字架で祈りを捧げてる」

「ヘビってサタンの遣いだったよね?」


 見よ!悪魔祓いの儀!皆のもの、信仰心を思い出すのです!


「神父があれじゃあ教会は...」

「宗教は危険なのかもしれない」

「俺もあの儀式やりたい!」

反応は芳しくなかった。悪魔祓いの儀など聖典にはない。執り行った私は職を失うだろう。しかし信仰心を取り戻す可能性が少しでもあるのなら惜しくはない犠牲だ。


 後日、懺悔室には神父だった男の姿があった。

「独自の悪魔祓いの儀を行い神を冒涜しました」

「えー、あなた懺悔室に来る資格がありませんね。信者だけですよ」

「今日はそれだけ言いに来ました」

田舎の風が教会を後にする男のコートをなびかせていった。

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