星降る夜に

山椒王尾

星降る夜に

12月25日、深夜の小さな田舎町。雪はもう止んでいて、空には無数の星が輝いていた。

主人公の拓也は、35歳の天文台職員。この町の古い天文台で一人働いている。クリスマスなんて、関係ないと思っていた。恋人は数年前に都会へ去り、家族は遠く。毎年のように、望遠鏡を覗きながら夜を過ごすのが習慣だ。

今夜も、観測室で星図を整理していると、ドアがノックされた。こんな時間に誰だろう。

開けると、そこに立っていたのは見知らぬ少女。高校生くらいだろうか。コートに雪を払いながら、息を白くしている。

「すみません……道に迷っちゃって。スマホの電池が切れて、ここしか明かりが見えなくて」

名前は美月。都会から親戚の家に来ていたが、夜散歩に出て迷ったらしい。クリスマスの夜に、一人で歩いていたという。

拓也は少し戸惑ったが、暖かいお茶を入れてあげた。天文台の中は静かで、ドームの屋根が開くと、満天の星が広がる。

「すごい……こんなに星、見えるんだ」

美月が目を輝かせて言う。拓也は、つい説明を始めた。オリオン座の話、冬の大三角、流れ星の通り道。

「クリスマスに、一人で星見てたんですか?」

美月が聞いた。

「まあね。星は、いつも一人でいてくれるから」

拓也は笑って答えた。でも、本当は少し寂しかった。

二人は一緒に望遠鏡を覗いた。土星の輪がはっきり見えて、美月は歓声を上げた。

「願い事、叶うかな……流れ星、見たい」

ちょうどその時、窓の外に一筋の光。流れ星が、ゆっくりと夜空を横切った。

「見た!」

美月が手を叩く。拓也も、久しぶりに心が躍った。

「何、願ったの?」

「内緒。でも……誰かと一緒に星を見られるって、幸せだなって思いました」

美月は少し照れくさそうに笑った。

その後、拓也は車で美月の親戚の家まで送った。別れ際、美月は言った。

「ありがとうございました。来年も、クリスマスはここに来ていいですか?」

拓也は頷いた。

「いつでもおいで。星は、待ってるよ」

車に戻ると、空にはまた新しい星が瞬いていた。一人じゃないクリスマス。静かな夜に、温かな光が灯った気がした。

メリークリスマス。

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星降る夜に 山椒王尾 @mumubb

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