雪の贈り物

山椒王尾

雪の贈り物

12月25日、街は白い雪に覆われていた。東京の喧騒も、この日は少し静かだ。主人公の遥は、30歳の独身OL。クリスマスを一人で過ごすのは、もう何年目だろう。家族は遠くにいて、恋人もいない。毎年、ケーキを買ってアパートで食べるのが習慣だった。

今年も、仕事帰りにコンビニで小さなブッシュ・ド・ノエルを買った。雪が激しく降り始めたので、急いで帰路につく。道中、公園のベンチに座る小さな影に気づいた。子どもだ。赤いマフラーだけが目立つ、10歳くらいの女の子。雪が積もるベンチで、一人震えている。

「大丈夫? こんなところで何してるの?」

遥が声をかけると、女の子は顔を上げた。大きな目が、涙で濡れていた。

「お姉さん……サンタさん、来なかったの。ママが病気で、お金がないって……プレゼント、ないって言ってた」

女の子の名前はあかり。母親はシングルマザーで、病院に入院中らしい。クリスマスに一人で待っていたのに、何も来なかったと。

遥は胸が痛んだ。自分も、子どもの頃に似たようなクリスマスを過ごした記憶がある。父が亡くなって、母が働いてばかりで、プレゼントはいつも手作りだった。

「ねえ、一緒に私の家に来ない? ケーキ、食べようよ。一人じゃ寂しいでしょ」

あかりは少し迷ったが、頷いた。二人は手をつないで、雪の中を歩いた。

アパートに着くと、遥は急いで温かいココアを作り、ケーキを切った。あかりは目を輝かせて食べている。テレビでクリスマス特番が流れ、部屋は少し賑やかになった。

「ありがとう、お姉さん。これが、私のプレゼント?」

あかりが笑う。遥も笑った。

「ううん。これはお裾分け。本当のプレゼントは……」

遥はクローゼットから、古い箱を取り出した。中には、子どもの頃に母がくれた手編みのマフラー。赤くて温かくて、ずっと大事にしていたもの。

「これ、あげる。雪の日にぴったりでしょ」

あかりはマフラーを巻いて、抱きついてきた。

「大好き! お姉さんみたいなサンタさん、初めて!」

その夜、あかりは母親の病院に連絡し、迎えに来てもらった。別れ際、あかりは言った。

「来年も、一緒にクリスマスしようね」

遥は頷いた。一人じゃないクリスマス。雪のように、静かで優しい奇跡が起きた気がした。

外では雪が止み、星が輝いていた。メリークリスマス。

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雪の贈り物 山椒王尾 @mumubb

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