第7話.未来を守るために
キョウと定食を交換し合い、食事を終えたルナは事務所に戻った。
彼とは少しだけ休憩時間がずれているので、彼女が先に休憩を終えるのは何も不自然ではない。
「ルナ、仕事頑張ってな」
「ありがとう。キョウも怪我に気を付けてね」
キョウと別れる前に交わした言葉は、ルナにとって別れの言葉だった。
彼がこの事実を知ることはないだろうけれど、ルナの中では既に意思が固まっている。
薄情な奴だと、自分でも思う。同時に、いっそのことそう考えてくれたらいいとさえ思っている自分もいた。
ルナは未来を守るための決断を胸に、前を向き始めた。
* * *
時が経つのは早いもので、キョウに番になってほしいと言われた日から、大体一か月ほどが経った。
キョウとはそれ以前のような曖昧な関係を今も続けながら、ルナは事務仕事をこなしている。
先輩たちによる気遣いは、当時ほどの過激さは鳴りを潜めている。
あと数日もすれば、完全になくなるのではと感じられるほどの温度感だ。
時計の針がかちりと音を立てる。同時に、鳩が飛び出した。
本日の業務時間が終了したという知らせだった。
「皆さん、少しいいですか」
事務長が声をかけたことで、帰りの支度をはじめようとしていた人や、肩の凝りをほぐすために両腕を天井へ伸ばしている人たちが動きを止める。
これを確認した事務長は、ルナに視線を向ける。ルナは一つ頷いて、事務長の隣まで移動した。
「本日をもって、ルナさんは退職となります。今まで、ありがとう」
「こちらこそ、短い間でしたが本当にお世話になりました。ここでの経験を活かし、またどこかで事務の仕事が出来ればと思っています」
事務長に続いてルナが挨拶をして頭を下げる。事務室は、時計の針だけが進む音を奏でていた。
「本当に、ありがとうございました」
誰も何も言わないので、ルナはもう一度お礼を口にしてから、事務長の方を見て軽く頭を下げ、事務室を後にした。
これを見てようやく現実に戻ってきた先輩の一人が、事務長に問い詰めるような声がしたところで、扉は閉まった。
廊下は誰もおらず、静かだった。
ルナは顔をあげることなく、足早に更衣室に向かい、荷物をまとめて騎士団の建物を後にした。
* * *
どんより雲が空を覆う中、ルナは走った。とにかく騎士団の建物から、キョウから距離を取りたくて足を動かす。
走って家に帰ったことなんてなかったため、今までで一番早く家に着いた。
自宅に入り、鍵を閉める。靴を脱いで、リビングのソファに腰をおろす。
家の中に腰をおろしたことで、ルナは本当に終わったんだと実感した。
明日から、騎士団の事務所に行く理由がなくなった。
キョウとの関係が、終わったんだと。
仕事がなくなったのだから、自分のことを心配しないといけない状況なのに。
ルナの頭の中を占めるのは、やっぱりキョウだった。
お互いに、すぐには立ち直れないだろう。でも、今の関係を続けるのは、二人にとって何もいいことがない。
だからこれは、必要なことだったんだ。
キョウだけじゃない。自分にとっても、前を向くために必要なこと。
ルナは自分にそう言い聞かせ続ける。
これでいいんだ。これは間違っていないんだと。
――さようなら。
ルナはキョウのいないところで、別れを告げた。
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