卵を割ったら虹色だった

目玉焼きを食べようと思った。

ボウルを出した後、冷蔵庫の扉を開けて、卵のパックを取り出す。この間スーパーで一個だけ安売りしていた7個入り、という妙に中途半端な数の卵パック。

7人家族用なのだろうか、なんて思いながら卵のうちの一つを取り出す。ボウルの縁、コンコン、と音を立てて、卵の殻をぶつけて、ひびを入れて、そのまま割った。

「え……」

　思わず声が出てしまう。

ボウルの中にあった卵の黄身は、赤いのだ。それは、血、とか言うよりもインク、みたいな鮮やかな真っ赤な色。その、人工っぽい赤、って感じだ。

　もしかしたら、そういう種類の卵、なのかもしれない。その、「濃いオレンジの黄身の卵」とかあるかもしれないし。同じ要領でもう一つ割っていく。

今度は、オレンジ色。もしかしたら、黄色かもしれない。まあ、濃厚な卵の色、という感じかもしれない。

　赤色の黄身と見比べる。黄身、って感じはする。でも単体で見るとやっぱりオレンジっぽい。赤色の黄身は、……とても赤い。

黄身が濃い色の卵、なのだろうか。でも、この赤はやっぱり赤すぎる。気になって、3つ目の卵を手に取り、割っていく。

　ボウルの中に黄色い卵が落ちていった。

「あ、よかった……」

　ボウルの中には、赤、オレンジ、黄色、の黄身……？、の卵がある。残り4つ。まさか、これ、割ったら虹色、なんてことはないだろうか。いや、さすがに、ないだろうな。

　でも、次に割った卵が、万が一青色、だったとしたら。それで卵かけご飯を食べる、としたら割と恐怖チャレンジ、みたいになってしまう。シュレーディンガーの卵。

　俺は、4つめの卵を割った。

―――

「…………マジか」

　結局、7つ卵を割ってしまった。

俺の目の前のボウルの中には7つの卵。赤・オレンジ・黄色・緑・青・紺・紫。たっぷりの白身と、レインボーカラーの黄身があった。予想通り、……これ、赤と黄色以外はなんて言うんだろう。赤身の刺身、とかはあるけど。「緑実」とか「紫実」とか？

　あと、これは混ぜたら黒になるのだろうか……でも、この綺麗な色を混ぜるのはもったいない。写真を撮ってから混ぜよう。SNSに載せようかな。でもインターネットに流したら間違いなく「加工」って言われる。じゃあ、俺だけの秘密にしよう。

　俺はポケットに入れていたスマートフォンを出して写真を撮った。写真にも、レインボーカラーの黄身が映っている。夢じゃなさそうだ。

　そして一番気になるのは味だ。何味なんだろうか。俺の食レポの下手さは学生内友人の間でも話題になっていたくらいだから、この味が美味く表現出来るかどうか分からないけれど、とりあえず作って食べよう。

　そして、俺は目玉焼きを作った。俺はがっつり固めの目玉焼きが好きだ。

　しばらくして、できあがった。

　大皿の上には目玉焼き。いや、白身に七色の丸が載っている謎の料理、って感じだ。なんというか映え、みたいな色をしている。赤・オレンジ・黄色・緑・青・紺・紫。目玉焼きというよりレインボー焼きだ。これは醤油を掛ければいいのかソースを掛ければいいのか……。

　俺はいつも食べている醤油をかけて、恐る恐る口に入れる。

味は……。

「美味しかった」