一億ドルの夜

遊び人

一億ドルの夜

 一昔前は100万ドルの夜景と言われ今では1億ドルの夜景と言われる

この街では今日はクリスマスで

いつも以上に輝いている


イルミネーションが大通りをきらびやかに彩り笑い声が至る所で聞こえる


その光景を窓から見ることしかできない スーパーの店員の井口の姿がいた  



大盛況のためスーパーの棚は空になっていく

井口はそれに気づき

急ぎ倉庫に戻り

午後に届いた仕入れ便から

カートを引き特売品やカップ麺などを

補填していく


店内のクリスマスのソングが

永遠に繰り返され

名曲なあの曲でさえ

今の井口には辛い様子であり


いらっしゃいませの声に

あからさまに元気がない


その後も元気のない

いらっしゃいせをすると

隣にリュックサックを背負った子供と

目が合う

きまづくなり

時計を見ると退勤時刻である


井口はカートの

商品を急いで棚に詰め

倉庫に戻り


私服に着替えると退勤カードを切り

外を出る



街は粉雪が舞い

イルミネーションの夜景と相まってか

景色は一億ドル以上の絶景だ


井口は空を見上げ歩いていると

後ろから


「ねぇ、お兄さん」


井口はそれが自分へ向けられていると知らずに歩く


「ねぇ、店員さん」


流石に気づき井口は振り向く


後ろには

スーパーにいた子供がいる

それと後ろにはその子の母親らしい人もいる


「お兄さんこれあげる」


小さい右手から

クリスマスツリーに見立て

装飾付きの松ぼっくりだ


あ~確かリュックサックにつけていた

やつだと井口は思い出した


「いいのかい、僕にくれるの?」


「うん!お兄さんメリークリスマス!」


「すみませんね、どうしてもこの子

店員さんの働いている姿を見て

どうしても渡したいって言うから」


そう言うと

井口に対して2人は頭を下げ

反対方向へ向かった


井口は少し嬉しくなり

足取りが軽くなったようだ


その後帰りのバスに乗ると

疲れもあってか

つい井口は寝てしまった






ハッと目を上げると

そこは明かりもない

暗い場所だ


井口は思い出した

ここは昔働いていたスーパーである


窓を向くと

建物は崩れ

街灯も倒れている


近年、世界大戦が起き

この都市も巻き込まれ

1億ドルの夜景と言われた

この街は瞬く間に崩れ

今は廃墟の塊だ


そしてこのスーパーの地下に防空壕が

作られ

今は井口や他の人達は

この場所で戦争の渦から避難している



井口は今日の配給分の

大量生産されたパンを片手に飢えを凌ぐ


隣には子供が一人


「お腹すいたよ」


小言をつぶやく


井口は思い出した


あの時の子供だ


周りも見るもあの母親らしき姿はいない


どうやら一人のようだ



井口はその子の瞳を見つめ

声を掛ける





「メリークリスマス

辛いけど乗り越えようね」




井口は大切な大切な

パンを半分に切り


子供に渡した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一億ドルの夜 遊び人 @asobibinin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ