バットエンドルート

柚木

第1話

キーンという耳鳴りと、いつものアラーム音で目が覚める。

夢の中で誰かに呼ばれた気がするが思い出せない。

重だるい体を起こし、なんとかアラームを止める。

さあ会社に行く準備をしようというところで、はたと気づく。

そういえば、今日は会社が休みだった。

よし2度寝をしようと布団に入るが、なかなか寝付けない。

1度覚めた頭に睡魔は来ないようだ。

仕方がなくベッドから起きて、顔を洗う。

眠れないなら、外に出て珍しく散歩でもしようと思い立ち、外へ出かけることにした。


こうして行先も決めぬまま歩いていると、かつて別れた恋人のことを思い出す。

付き合っていた当時は運命の相手だと思っていたが、次から次へと問題を巻き起こすような人だった。

よく付き合ってたな私。

かつての過去を思い浮かべながら歩くと、見知らぬ喫茶店を見つける。

看板を見ると珍しく朝からオープンしている喫茶店のようだった。吸い寄せられるようにして中に入る。

そこは不思議な雰囲気のこじんまりとした喫茶店だった。

中には怪しい雰囲気を纏うウエイターがいた。

「いらっしゃいませ」と声をかけられ、そのウエイターに勧められるがまま席に座る。

周りを見渡すが、店員は細目の男性ウエイター1人のみなようだった。

朝早いからか他に客はおらず、カウンター席が3つと、テーブル席が2つあるだけだった。

メニュー表を見るとコーヒーが中心で、それ以外はココアのみ。

手短にホットコーヒーを1つウエイターに頼むと、ウエイターはカウンター越しにコーヒーを入れていった。

「どうぞ、コーヒーです。」

想像よりも比較的早く出てきた。

提供された湯気立つホットコーヒーを一口飲むと、キーンという耳鳴りと共に、平衡感覚が崩れた感覚に襲われる。

いきなり頭がぐらぐらし、目眩に襲われる。

大丈夫ですか?というウエイターの声が遠くから聞こえ、大丈夫ですとなんとか答え、極めて冷静を保とうとするが、目眩がする。

なんとか耳鳴りと目眩がおさまると、ウエイターが静かに隣に立っているのに気づく。

「貴女は…呼ばれてここに来たのかもしれませんね。」

といわれ「え?」と思わず聞き返すと、頭の中に声が響いた。

『貴女はどっちを選ぶ?』

驚いてウエイターの顔を見ると、ニコリと綺麗に微笑まれた。

今の声は明らかにウエイターの声ではなく、頭の中に響いたものだった。

「どうしたんですか?」

ウエイターに聞かれ「いえ…」と視線を逸らす。

するとまた声が響いた。

《このままいくと、貴女は彼が犯していた罪を被る事になる。彼は貴女を犯人に仕立てあげる。どうする?》

ばっと勢いよくウエイターの顔を見るが、怪しくニコニコと笑っているのみ。

「今、何か言いました?」

「いいえ?」

ニコリと笑われる。

「そうか、やはり貴女は呼ばれてここに来たんですね。お告げ、ありました?」

「お告げ…?」

さも面白可笑しそうに話すウエイターを訝しげに見る。

何を言っているんだこの人は

「そう、お告げ。まあ信じられないのは無理もないですけど。こんなおかしな事。」

ふふっと楽しそうに怪しげに笑うウエイターを見て、この喫茶店に入ったのは間違いだったのではと思う。

この喫茶店は最初から何もかもがおかしい。

「今何か聞こえませんでした?頭の中で。声がしていたはずですよ。」

「貴方にも聞こえたんですか?」

「いいえ?私は何も。」

愉快そうに笑うウエイターを尻目にコーヒーカップに目をやる。

「何か変なものでも入れました?」

「そのコーヒーにですか?いいえ、何も特別なものは入れてませんよ。」

「じゃあ、何で。」

「声が聞こえるのか、ですか?それは貴女にしかわかりませんよ。」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味です。」

ウエイターはくるりと踵を返し、カウンターに戻って行く

「私、帰ります。550円で良いですよね。」

立ち上がり財布を取り出す。

「あらもう帰ってしまうんですね、残念。でも1つ良いことを教えてあげましょう。」

「何ですか?」

ちょうと小銭があったため、カウンターにお金を置く。

「お告げは何時でも正しいんですよ。」

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