いってらっしゃい

××年〇〇月△△日

今日、娘が死んだ。

明るく、元気な子だった。

このまま、素敵な女性になって、

素敵な男性と恋をして、

幸せな人生を歩んでいくんだと思っていた。


どうして、気づいてあげられなかったんだろう。

自問自答しても答えは出ない。

あの子のお気に入りだったマフラーを抱きしめて、ただ泣き続けた。




今日も仏壇に手を合わせている。

あの日から49日。

そろそろ前を向かないと、

あの子に怒られちゃう。


ふと玄関の方から気配を感じて、

視線を向けた。

マフラーがなくなっている。

確かに置いていたはずなのに。


ただ漠然と感じた、あの子は今ここにいる。

確信なんてない、幽霊なんて今まで信じていなかったけれど。

声が聞こえた。


「おかあさん、だいすきだよ」


ちょっと舌っ足らずで、優しいあの子の声。

また涙が溢れてくる。


「なかないで」


濡れた視界に満足気な、

あの子の笑顔が見えた気がした。


きっとあの子も前を向いて進んでいく。

私も前を向かなきゃ行けないね。


「おかえり」


そして


「行ってらっしゃい」


いつか貴方にまたあえる日を願って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ただいまと、いってらっしゃい @Nekomaru_san

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ