夢見る少女と聖夜の魔法

御厨火花/小鳥クリエイト

本文

 こちらの作品は小説家になろう、カクヨムにて投稿しております。


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 メリークリスマス、世界


 これは、とある少女がクリスマス・イブに体験した世にも不思議なお話。

 アーカイブの奥底に眠ってた記録なんだけど、誰が体験したもので、どこの世界のことかわかっていない、それに、登場人物の名前だって、誰かが故意に消しているみたいなんだ。


 今日は年に一度のクリスマス、ちょうどこれもクリスマスのお話らしいし、最後まで読んでみようと思う。

 ────PS.駆け出し世界管理人から、このお話を開いたあなたへこの物語の閲覧権限を与える。一応形式的なことでも、閲覧権限を与えないと開けないらしいからね、それじゃ


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「ねぇ……お姉ちゃん……今年もサンタさんからプレゼント……っっ……もらえるかな……?」


 12月上旬、一人の少女が私にそう質問してきた。

 少女は苦しげな、だけどどこか夢を見ているような、そんな見ていて痛々しい表情でぜえぜえ息を切らしていた。

 私は当然、少女に「大丈夫だよ、いい子にしてれば、きっとサンタさんからクリスマスプレゼントはもらえるよ」と言った。


「そう……だよ……ね、お姉ちゃん……サンタさんは……きっと来るよ……」


 少女は、にへらと笑い、そのまま体力が尽きてしまったのか眠ってしまった。

 だが、なぜだろうか私は、少女に嘘をついてしまったような気がして、どうしようもなく、いたたまれない気持ちになった。

 ────だって、サンタさんなんて本当はいないんだから。


 ❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎


 ────12月下旬、この時期になると毎年、大抵の人々は年に一度のクリスマスをどう過ごそうか、誰と過ごそうか、そんなことを考えながら日々を過ごし、早くクリスマスが来ないかと一日が過ぎることを心待ちにするだろう。


 聖夜の夜には、人々を幸福にさせる魔法がかけられる。

 それは、誰かが故意に引き起こすものではなく、クリスマスという事象が、人々の胸を躍らせるのだ。


 だけど当然、そうでないものもいる。

 例えば私だ。


 私は正直、今年のクリスマスは来てほしくなかった。というよりか、クリスマスに限らず、一日でも時間が過ぎてほしくなかった。


 いやなに、私だってクリスマスは好きだ。いや、好きだった、と言った方が正確だろうか。

 去年までの私なら、世界中の大多数の人と同じく、クリスマスを心待ちにして、12月24日と25日の予定を考えてうきうきしながら聖夜を迎えていただろう。


 だけど、今年はそうもいきそうもない。

 今日は12月24日、クリスマス・イブの日だ。だというのに、私の周りには少し前までくだらない会話で笑い合っていた友人の姿はない。

 ────それに、『あの子』ももういなくなってしまった。


「みんな、今日は何してるんだろうな……」


 そう呟きながら、友人たちのことを頭の中に浮かべてみる。

 確か〇〇は彼氏ができたと言っていたから、どこかデートにでも行っているのだろう。

 △△は、重度のブラコンだったから、大方、家族とクリスマスの夜を過ごしているに違いない。


 聖夜の夜には、人々を幸福にさせる魔法がかけられる。

 特にそれを感じられていたのは、まだ幼かった頃、と言っても、小学校低学年の頃までだから、まだ6、7年ほど前のことだ。


 机の上に並んだチキン、大人達の飲むシャンパンに子供達が飲むシャンメリー、甘いクリスマスケーキ、あの頃は今以上にご馳走たちが輝いて見えた。


 そして、サンタクロースがトナカイの引くソリに乗って運んでくるクリスマスプレゼントを貰うために、わくわくしながら眠りにつくのだ。


 次の日の朝目覚めると、いつの間にか家の中にクリスマスプレゼントの入った箱が置いてあり、それを開けると、中から自分の欲しかったおもちゃや服などが出てきて、そして口々にこう言う、


 ────『サンタさん、ありがとう!』と。


 でも、いつしか私はサンタなんて存在していなくて、子供に夢を見させるために、世界中の父と母がつく、優しい嘘なのだと理解した。

 そのきっかけなど、今となっては覚えてはいないが、そんなことはどうだっていい。


 今重要なのは、サンタがトナカイの引くソリに乗ってクリスマスプレゼントを運んでくるというのが虚実で、サンタが存在しないということは真実であるということだ。


「そういや、サンタさんは本当にいるって、周りの子より長いこと信じてたなぁ……」


 そう言えば、『サンタはいる』と言い張って、クラスメイトと喧嘩したこともあった。

 今思えば、バカバカしい話だ。


 自作したクッキーをサンタに上げようと設置していたのを、次の日の朝になくなっていたことがサンタがいる証拠になると、あの頃は本気でそう思っていた。

 実際は、父がクッキーを夜の間に食べていただけなのだが。

 ────私も『あの子』みたいに、純真無垢にクリスマスを楽しめていた時があったのかな。


「なんだか最近は、昔のことをよく思い出すな……でも、今日は特に……ね」


 私は粉雪の降り注ぐ闇に包まれた外に視線を向ける。

 視線の先にある街路樹には、イルミネーションが施されており、そちらに耳を澄ませると、若い男女の楽しそうな声が聞こえてくる。


「楽しそうでいいなぁ……」


 彼らを見つめていると、ふと呟いてしまっていた。

 きっと彼らは、明日なんて何もせずに来るもので、いつまでも人生が来ると錯覚してしまいそうになる程、人生の終着点を考えたことがないのだろう。


「まあ、普通に生きてたら、あの年でそんなこと考える必要ないか……」


 私もこんな境遇になるまで、考えたことはなかった。

 あまりにもあの二人が幸せそうにしているのを見て、私と何の接点もないのに、恨めしいことを考えてしまっていた。あまりにも、惨めだ。


「あはは……駄目だな、私、もうずいぶん前に覚悟はしたはずなんだけどな……」


 覚悟をしたと言っても、言葉に出しただけだ。

 やはり、私はこの人生に、未練がたくさんあるんだろうな。


「私も、誰かを愛して、あんな風にデートして見たかったな……」


 一度呟いてみると、堰き止めていたものが溢れ出すように願いがたくさん出てきた。


「世界中を旅して見たかったし、美味しいものもいっぱい食べたかった、友達もたくさん作りたった、いろんな場所に遊びにいきたかった、乗りたいジェットコースターだってあったし、なりたい仕事だってあったのにな……」


 こんなに独り言を呟いてなお、私ってこんなに未練たらたらだったんだなと、どこか他人事のように思えてしまう。

 だけど、どうせ叶わない夢なのだから、一度口に出して見ても損はない。


「あ……れ?なんでだろ、変だな、涙が出てくる……」


 もう泣かないって決めたでしょ、自分の運命を受け入れるって決めたでしょ、私は自分にそう言い聞かせて込み上げる涙を抑えた。


「ふぅ……」


 一息つくと、私はぼーっと窓の外を見つめた。

 動かない夜の闇、それを何の感情ももたずに見入っていると、走馬灯のように過去の記憶が浮かび上がってくる。

 だが、それらは粉雪のように浮かび上がっては消え、浮かび上がっては消えを繰り返した。


「そう言えば私、子供の頃、サンタさんのソリに乗って、世界中を旅するのが夢だったっけ……」


 確か、あの時クラスメイトと喧嘩したのも、その夢を否定されたからだったか……全く、あの頃の私は夢を見過ぎではないだろうか。


「……そろそろ寝ようかな」


 もうこんな時間だ。

 夜更かしは体に悪いし、長生きしたいのならするべきではないが、なぜか今日だけは起きていたかった。

 それがなぜだかは自分でもわからないが、なのだから、これくらいのわがままは許されるだろう。

 目を瞑れば、何とも言えない恐怖が私に襲いかかる。


「明日また、起きられますように」


 呟いた瞬間、強い光が窓の外から差し込んだ。

 その光は温かく、私にひとときの安らぎを与えた。何か、人の優しさに触れた時のような、心の奥底から温かくなる、あの感覚。


「んん……眩し……え?」


 聖夜の夜には、人々を幸福にさせる魔法がかけられる。

 それは、時に説明のつかないことが起きる時もある。例えば今のような時だ。

 私の目の前に、トナカイの引くソリに乗った、赤い服に大きな白い髭のお爺さんが現れたのだ。

 私はこんなことが起きるのだろうかと目を疑った。寝ぼけているのだろうか、そう思い、目を擦ってみる。

 だが、目の前にいる赤い服を着たお爺さんは消えることなく私に手を振って微笑んでいる。


「嘘、でしょ……?これって……」


 サンタ?と言おうとして言えなかった。

 なぜなら、息を呑むほどの景色が、瞬き一つの間に辺りに広がっていたからだ。

 どこを見ても光が私たちを包み込むように輝いていて、幻想的な、それでいて穏やかな心奪われる光景だった。どうやら私はソリの上に乗っているようで、真正面を向くと、笑顔でソリを引いているトナカイが二匹、そして、私のすぐ横に、この世界にいるはずがないと思っていた存在であるサンタクロースが、私の肩を掴んで微笑んでいた。


「ほーっほっほっほ」


 ────サンタさんって本当にあんな笑い方するんだな……。

 周囲に広がる綺麗な光よりも、私はそんなことくだらないことを考えていた。


「やあ⬜︎⬜︎!元気かい?ボクは元気だよ!」

「ねえねえ!空を駆けるのって気持ちいいよね!君もそう思わないかい?」


「────え?トナカイが喋った?」


 驚いた。

 何せ、ソリを引くトナカイが喋るなんて、一切思いもしなかったからだ。


「トナカイが喋らないなんて誰が決めたんだい?」

「ボクお喋り大好きだよ!君ともたくさん話したいな!」


 トナカイたちは口々に私に話しかけてくる。

 最近人と会話をすることが減ったせいか、辿々しい受け答えになってしまったが許して欲しい。


「ほーほっほっほ」


 突然、サンタが大きな声で微笑んだ。

 すると、トナカイたちが楽しそうにソリを引いて空へと駆け上がった。


 聖夜の夜には、人々を幸福にさせる魔法がかけられる。

 ソリから身を乗り出して地上を見つめていると、私が先ほどまでいた白い建物がみるみる小さくなっていった。私はなぜだか、あの建物にもう二度と戻れないような気がした。

 だけど、そんなことどうだってよかった。


 ────だって今、私は最高に幸せなんだから。

 久しぶりに、生きていると感じた。今は私が、世界の主人公なんだって、本気でそう錯覚してしまうくらい、世界で一番幸せなのだと思えてしまった。

 だって、空想上の存在であったサンタが本当に存在して、あまつさえトナカイの引いているソリにも乗ることができているのだ。


「わぁ……これって……」


 いつの間にか私は、いつか行ってみたいと思っていた万里の長城の真上にいた。

 ここにスマホがあれば写真をたくさん撮っていたところだ。だがしかし、今私の手元にスマホはない、脳内のフィルムにしっかりと保存しておこう。

 ────あ、空からプレゼントが落ちてる。


 よく見ると、サンタがプレゼントをばら撒いていた。

 おそらく、あのプレゼントの行き着く先に、子供達が眠っているのだろう。


「ほーっほっほっほ」


 サンタが再度笑うと、ソリが移動を始めた。

 すると、瞬く間に景色が変わり、ピラミッドとスフィンクスの近くへ移動した。


「ここも私が行ってみたいと思ってた場所……もしかしてサンタさんは私が行きたかった場所に連れていってくれてるの?」


 私がそう聞くと、サンタは「ほーほっほっほ」と微笑みながら、またもや移動を開始した。

 エッフェル塔、凱旋門、ヴェルサイユ宮殿、ノートルダム大聖堂、ピサの斜塔、その他にも、私がこの目で見ることを諦めかけていた場所へと、サンタは微笑みながら見せて行ってくれた。


 そして、おそらく終点である、自由の女神の頂上へと辿り着いた。

 クリスマスだからか、装飾やライトアップが施されていて、地上では多くの人が写真を撮っている。どうやらサンタの姿は地上にいる人たちに見えないようなので、特段気にする必要はないだろう。


「ねえ、サンタさん、あなたは私に最後のクリスマスプレゼントを渡しに来てくれたの?」


「ほーほっほっほ」


「あはは、あなたもしかしてそれしか言えないの?」


「ほーほっほっほ」


「変なの」


 最後にこんな夢を見させてくれたサンタには感謝している。全部ではないが、叶うはずのないと思っていた夢を叶えてくれた。


「あ、いけない!早く帰らないと!」

「ほんとだ!⬜︎⬜︎!またね!」


 突然、トナカイたちが慌てたようにそう言うと、急にソリが消え、足場を失った私は、下へ下へと落下していった。

 下にあるのは暗闇だけ、いつの間にかサンタもトナカイたちもどこかへ行ってしまっていて、私は一人で落ちていった。だが、不思議と恐怖心はなかった。

 ────なんだか、最後に長い夢を見ていたような気がする。


「サンタさん、ありがとう」


 その瞬間だった。

 聖夜の夜には、人々を幸福にさせる魔法がかけられる。

 それは魔法、そう、魔法だった。辺りは光り輝き、満天の星空が見えた。

 流れ星が急接近してきて私をすくいあげた。


「よいクリスマスを、⬜︎⬜︎」


 次の瞬間、私は流れ星に乗って空の上へと飛び上がった。どこからか花火も打ち上げられていて、私と共に飛び上がっている。そして私は、空の上に人影を見た。


「お姉ちゃん!」


 その子を見た瞬間、私は全てを理解した。

 だけど、私は微笑んでこう言った。


「××ちゃん!サンタさんに会ってきた!」


 《了》


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本文の解説が欲しい方はコメント欄にて明日まで受け付けております


例:「〇〇」のシーンってどう言う意味ですか?など


また、割と急いで作成したので、今後一部内容を変更する可能性があります。

ご了承ください。

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