21:吸血族の下僕
■勧誘
一階からは姉ちゃんと心優の楽しそうな話し声が聞こえてくる。
今日も心優は、おばさんが作ったおかずを持ってきてくれた。
心優の両親には感謝してもしきれない。
√ 下僕だな。
夕食を終え、自室でおれ達は中原について話していた。
押し入れの上段で、ダミアンが肘をつきながら寝そべっている。
「下僕?」
√ そうだ。
下僕という単語はちょくちょく出てくる。
確か主人に逆らえない、吸血族の奴隷のようなものだったはず。
下僕になると何かしらの呪いの力を手に入れることが出来るんだったな。
「中原は吸血族の下僕だっていうのか」
√ その絆創膏が噛み傷を隠したものだとすれば、まず間違いないだろう。
分かってはいたが、吸血族の関係者が身近にいるってのは、正直ぞっとする。
√ 不思議に思っていたのだが、中原が下僕なのであれば、ババアに遭遇したのも納得がいく。
「どういうことだ?」
√ おそらく中原は、ラノベでいう索敵スキルを持っているのだ。その能力を使ってババアを見つけたが、気づかれて逆に後をつけられていたのだ。
「なるほど……」
√ ババアにつけられていることに気づいた中原は、たまたま索敵スキルに引っ掛かった吾輩に近づき、吾輩とババアを鉢合わせにさせたのだ。
……マジかよ。
「それって、めちゃくちゃ洒落にならないんだけど。おれ、もう少しで殺されるところだったぞ」
√ 吾輩が一緒にいたから助かったのだ。感謝しろ。
「しねぇよ! お前が一緒じゃなかったら、エヴァに気づかれることもなかったじゃないか!」
思わず声を荒げたが、ダミアンは尻尾をゆらゆらさせて涼しい顔をしている。
「それで、おれはその索敵スキルに引っかからないのか?」
√ どうかな。魔力を感知する索敵スキルであれば、おそらく貴様は感知されないだろう。吾輩が知る限り、索敵スキルは血の契約を行った人間を感知しない。以前、吾輩の下僕が索敵スキルを持っていたが、吸血族が浄化された後の宿主、つまり吸血族の「抜け殻」だが、見つけることが出来なかった。
「ふうん」
憑依された人間から吸血族が消えれば、今のおれと同じような状態になるってことか。
「あのさ、中原が下僕だってことは、当然だけど主人がいるわけだよな? そいつに、お前の存在が知られたんじゃないか?」
√ その可能性は非常に高いな。
「冗談じゃないぞ。またエヴァみたいなのが襲ってくるんじゃ……」
√ 今のところ、そっちの可能性は低いだろうな。
「なんでだよ?」
√ まだ憑依が定着していないからな。それに魔力量に差があるので、しばらくは用心するだろう。吾輩と同レベルの魔力量を持つのは、ババアとアドバンだけだからな。
「そのアドバンってやつは、本当に大丈夫なのか?」
√ アドバンは味方と思って間違いない。
本当に信じていいのか……?
√ いいか、琢磨。中原も貴様が同じ学校の生徒だと気づいているかもしれん。学校から帰るときは、後をつけられないように気を付けるのだ。用心するに越したことはないからな。
確かに、隣のクラスだしな。
ただでさえ目立つ心優が、しょっちゅう話しかけてくるんだ。
もう、とっくに気づかれていると思ったほうがいい。
√ ところで琢磨。しつこいようだが、貴様、吾輩の下僕にならんか?
「ならん」
√ そうか……
ダミアンはがっかりしたようにうなだれた。
「だいたい、おれがその下僕になって、どんなメリットがあるんだよ」
√ あるぞ、大きなメリットが目白押しだ。
ダミアンの表情がパッと明るくなった。
猫のくせに表情豊かだな。
こいつが悪魔だってこと、忘れてしまいそうだ。
√ まず、特殊能力を手に入れることが出来るぞ。吾輩からの加護…… ギフトというやつだ。吸血族から与えられる魔力の量に左右されるが、そのへんは気にすることはない。膨大な魔力量を誇る吾輩の下僕にするのだ。一般的な下僕とは桁違いの魔力を与えてやる!
なんか、凄くやる気になってるぞ。
胡散臭さも、同じくらい凄いな。
√ 例えば、運動能力が底上げされる。それを活かせば、スポーツ選手としても成功するかもしれん!
ドーピング検査に引っかかりそうだ。
√ それだけではない。普通の下僕には難しいが、大量の魔力を持つ下僕は魔力鎧を纏えるものが多い。
ダミアンの尻尾を掴んだときのあれか。
今の状況を考えれば、確かに魅力的だ。
『多い』というのが気にかかるが……
でも思春期の男の子にとって魅力的な能力だ。
おれは身を乗り出した。
√ 個別の特殊能力についてだが、どのような能力が手に入るか吾輩にもわからん。
「この間、ガチャとか言ってたことか?」
√ そうだ、中原のように索敵能力であるとか、人の思考を読むとか、人払いが出来るとか。優秀な下僕なら、まれに強力なバリアーを構築したりもする。過去には転移魔法陣を作ったり、ダンジョンを構築するという、ちょっとわけの分からない能力を持つやつもいたそうだ。
ダンジョンって……
そんな能力もらっても、使い所がわからんしなぁ。
√ これらの能力は、主人が死んでも残る。吾輩の知り合いの友人の話だが、古代中国の将軍・呂布や、トロイア戦争の英雄・アキレスも元下僕だったそうだ。
……嘘くせえ。真面目に聞くのやめようかな。
√ よく考えてみろ。吾輩は猫なのだ。生きてもあと十年ほどだ。十年後にはそんな素敵な能力を自由に、そして使い放題だぞ! どうだ、吾輩の下僕にならんか? いや、なるだろう? ならないほうがおかしい。吾輩が死んだあとのことを想像するが良い。ほら。
確かにそんな能力があれば、オリンピックだって夢じゃないかもしれない。
何億も稼ぐトップアスリートになって、女の子にモテモテになって…… って、
「おい、化け猫。それってこの先十年、お前の奴隷にならなきゃいけないんだろ」
√ 誰が化け猫だ。それに奴隷じゃない! 下僕だ、げ、ぼ、く!
「じゃぁ、吸血族のいう、奴隷と下僕の違いを教えてくれ」
√ そうだな…… 呼び方?
ダミアンは首を傾げた。
悪魔のくせに、正直なやつだな。
おれはこのとぼけた悪魔にはっきりと言ってやった。
「絶対に嫌だ!」
あれだけ生き生きしていた化け猫が、しゅんと肩を落とした。
次の更新予定
吸血魂 ―猫に憑いた悪魔と血の契約を結んだ結果、生き残りゲームに巻き込まれた― @haruyokoi4096
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