私は家出少女に恋をする。

山猫蒼

プロローグ 私の罪

 私の人生は常に善意で回ってきた。

 私が電車で座ることは滅多になかった。周りの人が私より疲れているかもしれないから。

 自分の夢を捨てて、両親の望む進路に従った。両親がそれで笑顔になってくれたから。

 人に恋をすることはなかった。私が好きになる人は、他の誰かが好きな人かもしれないから。

 ただそれだけの、善意。

 そうしていたら、周りからはまるで聖人のように扱われた。

 祖母は「優しい子に育ったねぇ」と、私の頭をいつも撫でてきた。嬉しかった。

 友達は「美柑にならなんでも頼めるよ!」と、慕ってきた。嬉しかった。

 先生は「あなたのような娘を持って、親御さんもきっと誇らしいでしょうね」と、褒めてきた。嬉しかった。

 …本当に嬉しいと思っていたのだろうか?

 側から見れば、何も過不足のないただの優等生。私も自分をそうだと思い込んでいた。

 

 結論から言えば、これは大きな大きな間違いだったのだろう。

 かつての善意の正体を、私はもう知っている。

 もっと脆くて、危うくて、儚くて。


 私は、ただ。

 

 初めは善意で括れる範疇の、鮮やかで純粋な行為だった。

 何も変わらないはず、だったのだ。

 でも、愛情の味に侵された私は。

 美しく、踏み外した。

 

 だから、今、私を愛から引き剥がそうとするこの手を、振り払うことはない。

 罪は、償わなきゃいけない。

 

 だから。

 泣かないで。彗花。

 

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