第2話




 とりあえずさっきの人の言うとおりにするしかないのだろう。

 指示された方向に足を向け、辿り着いたのは郵便局や銀行、当然役所にも置いてあるような受付番号発行の機械が置いてある机。その机には件の機械が1つ置かれていて、その前に人がずらりと並んでいた。

 その最後尾を探して自分も並べば、後からもどんどんと人がやってきて、列は長くなる一方だった。


 とはいえ順に進んでいくので、いつの間にか自分の番になり、発行された小さなカードを手に取る。

 さっき拾っておじさんに返した、あのカードと同じものだ。

 ただ当然の事ながら、並ぶ番号は違う。

 それにしても桁数が半端ない。


 考えればそれも当然かと、一人納得する。この場が日本人だけの場所なのか、それとも例えば地球全体なのかはわからないが、日本に限定したとしても、この人数は納得だ。

 毎日毎日、警察前に掲げられる交通死亡者数、それだけでなく病やその他諸々、いろんな理由で毎日それなりの死亡者が出ていたのだ。

 この受付番号制度が何時からあの世で採用されたのかはわからないが、まぁ理解するに吝かではない。


 ちなみに世里香の番号は『5642SEN-777781428888』


 何だろう、7とか8とか生前だったら思わず微笑んでしまいそうな数字だが、死後では有難みも糞もない。

 とは言えこんなに数字が多いと、反対にわかり難い気がする。だって呼ばれても気づかない自信しかない。


「受付番号8851さーん」


 やはりというか下4桁しか活用していないようだ。ならば何故こんな膨大な数字になってしまっているのかを、ぼんやり考える。自分の番号が呼ばれるまでまだ時間はかかるだろうから、暇潰しに丁度良い。


 ふむと床を見据える。

 暫く考えて思いついたのは、何時からこの受付番号と言うのが稼働しているのかわからないが、単に累計としてリセットしていないだけ。あと一つはそのリセットする暇もないという事。世里香としては後者を推そうと考える。


 恐らくだがここは24時間フル稼働だろう。だってここが本当にあの世なら、死亡すれば受け入れざるを得ない。現世に帰る事の出来ない魂を門前払いにする訳にはいかないだろう。つまり営業時間等を設けても、それを順守する事は出来ないはずだ。ならば24時間いつでも対応するしかないじゃないか。


 それに……フル稼働しても、今見える人数を捌くだけでもとんでもない時間がかかりそうだ。


 何しろ待っている人数に対して、ざっと見回した範囲に見える窓口は2つだけ。

 人口も増えた事で死亡者数だってそれなりに増えているはずなのに、あの世の窓口が二つだけというのは如何なものだろう。

 流石に少なすぎるのではないか?


 此処で何を言っても仕方ない。言ったところで窓口が増える訳でもないのだ。

 もしかすると人口減少に備えて無駄な経費をかけないようにしているのかもしれない。それはそれで世知辛すぎて泣けてくるが、答えの出ない事でも色々と考えるのは、時間潰しにもってこいなのだ。






「受付番号8878さーん」

「受付番号8879さん、8879さん、いませんか?」


 自分の番号が呼ばれるまでもう少しだ。

 番号が呼ばれて窓口に向かう人々をぼんやりと眺める。時折順番を守らない人や文句を言う人もいるようだが、それはザ・市役所職員な姿の……あれは死神さん? それとも鬼さんなのか…もしかすると悪魔さんかもしれない存在が、のっそりと近づき適切に対応している。もう職員さんでいいや。


(まぁ、あんな無言の圧には勝てないわよね。なんたって背中にはちっちゃいけど翼までついてるような存在に。

 それにしても全体的にやっぱり大人しいというか…日本人だわって納得出来てしまうし、聞こえてくる言語が日本語なのよね。此処には外つ国の死者の方々はいないのかもしれない。国籍か死亡地か…区分の条件は分からないけど)




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