『バイナリー・ゴッド ―0か1かの異能境界線―』

春秋花壇

零の境界(ゼロ・バウンダリー)

零の境界(ゼロ・バウンダリー)


右か左か、上か下か。 世界はいつも、残酷なほどに二つに一つだ。


液晶の海に漂う、緑と赤の脈動。 それは強欲な誰かの溜息で、絶望した誰かの叫び声。 引きこもりの僕に届く、唯一の、血の通った数字。


まばたきの間に、未来が色を帯びる。 「白」は天国へのチケット。「黒」は奈落への招待状。 神様がサイコロを振る前に、 僕の瞳は、結末(0か1か)を書き換えてしまう。


一瞬でミリオンダラー、一秒で無価値(ゼロ)。 積み上げた札束は、色彩を奪うための供物。 空の青を差し出し、指先で未来を買い叩く。


「当たり」を引き続けるたびに、 心は透明な硝子になって、 僕の境界線は、現実から剥がれ落ちていく。


残高、九桁。 友、ゼロ。 光、失。


それでも僕は、またクリックする。 この白と黒の狭間にしか、 僕の居場所は、もう存在しないから。


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