審問官と魔女とクリスマス

暗黒神ゼブラ

審問官と魔女とクリスマス

審問官と魔女とクリスマス


『懺悔は済ませたか?』

必ずこの言葉を聞いた後に審判を下すことにしている。

対象が異端視されていたとしても対話を繰り返せば更生出来るはずだ。

「おい魔女、懺悔は済ませたか?」

「また私を魔女呼ばわりですか……はぁ、本当に嫌になりますよ。懺悔したところで結果は変わらないでしょ」

「そうか、だったら判決を言い渡す。有罪だ、業火の魔女キルマ」

「やっぱりね…………その前に少し待ってもらうことって出来ない?」

「なぜだ? ……あぁ雪か、もうそんな季節か。だが待つ理由にはならない」

「審問官様には分からないでしょうけど、今日は異界ではクリスマスって言って神様が生まれた降誕祭……それに……」

「待ってやる、話せキルマ」

「魔女って呼ばなくていいですか?」

「今は呼ばなくても構わない。それに異端審問官が分からず屋ばかりだと思われるのも心外だからな」

「そっ、そうなんですか?」

「なぜ疑問系だ」

俺が聞いたのは異界の神と生誕を祝う祭り、そして……キルマの死んだ妹の話だった。

「キルマ……お前、まさか転生者なのか?」

「もしかして審問官様も?」

「いや、俺は違う。俺の同僚が転生者という異端者に会ったと聞いたのだ。お前の妹への愛は本物だと話を聞いていて思った。なので要観察へ切り替えることにする。そのクリスマスとやらを教えろ」

「審問官様、騙されやすいとか言われませんか?」

「言われることなどない。それと話を聞いた限り家の方が良いのだろう?」

「そうですけど、私の家はもう……」

「ならば俺の家でやればいいだけの話だろ」

キルマを自宅に招き、クリスマスとやらを教えてもらうことにした。

「審問官様の家に向かう前に買い物してもいいですか?」

「別に構わないが、何を買うつもりだ」

「審問官様への贈り物です」

「先ほど説明にあったクリスマスプレゼントとやらか……俺が欲しいのはスズランだな。一番妹が好きな花だった」

「だったってことは今は……」

「もう死んでいる」

「色とかは決めてますか?」

「どの色も似合うがやはり白だな、一番花言葉が合う」

「審問官様も花言葉を調べたりするんですね」

「当然だ。一番似合うと思う花を贈りたいからな」

「もし私に贈るとしたら何にしますか?」

「ラベンダーだろうな」

「即答ですか、やはり『疑惑』ですか?」

「それもあるが『期待』もしているのだよ、ここまで対話出来たのはお前が初めてなんだ。異端者として処罰ばかりしていては繁栄はない……俺は見てみたいんだ"異端者"と呼ばれているものが異端者と呼ばれず当たり前に幸せに過ごせる世界を。……今聞いたことは内密にしてくれ」

「審問官様なら出来ると思いますよ」

「簡単に言ってくれるな」

「もうそろそろ町に着きますね」

「買い物は早く終わらせて帰るからな」

キルマが買い物を終わらせるまで俺は見張っていたのだが、まさかカール(店主)から『とうとう神官様に恋人が。お幸せにね』なんて言われるなんて想像もしていなかった。

当然否定した。

その後のカールの『そういうことにしていてあげる』という言葉が妙に引っかかる。

「買ったのなら早く帰るぞ」

「どうしたのですかそんなに急いで」

「胸騒ぎがするからだ」

「そういうことなら分かりました」

俺の家に着いた時に胸騒ぎの原因が分かった。

『盗賊が中にいる、気をつけろ』

『分かりました。審問官様も気をつけてください』

俺は音響魔法で音を聞いていると声が聞こえた。

「今誰か入ってきやがったな。クソッこのままだとあいつらに持って帰る食糧が……殺すか? だけどそれで時間かけて捕まるわけにはいかない」

……食料なら俺に頼んでくれれば必要な分渡せるというのに。

ドン!!

『審問官様!? 音が』

『気にするな、気づかれても大丈夫だ』

ダダダダ

「おい、テメェら今回だけは見逃してくれ!!」

「見逃せるわけがないだろう。ちょうどクリスマスパーティとやらを催すのだが、人数が足りないのだ。お前も誰か呼んでこい、その時に食糧を存分に渡せるぞ」

「本当にいいのか?」

「俺は神官だぞ、嘘をつけば主より罰が下る」

本当は嘘をついたら罰せられはしないが、安心させるためだ。

「あっ、ありがとうございます!! すぐに呼んできます」

「戻る前にこれを持っていろ。役に立つかもしれないからな」

問い詰められた際に俺の客人であることが一目見て分かるよう教会で発行した紙を持たせた。

何かあった時のために持っておいて正解だったな。

「おい、キルマ今すぐに教えろ。作れるものは作っておくぞ」

「分かったけど、時間がかかるものばかり」

「安心しろ、加速魔法で時間を加速させる」

そして俺とキルマで少年が帰ってくるまでに支度を済ませた。

俺はサンタとやらの格好をさせられている。

「審問官様これなら怖がられないですよ!!」

「そうなのか?」

ガチャ

帰ってきたな

子供達は無邪気に叫びながら走り回っている。

「おーい食べ物はこっちだぞ〜!!」

俺は子供達に聞こえるように叫んだ。

少年がお礼を言いにきた。

「その、今日はありがとうございます。それとさっきは盗もうとしてごめんなさい!!」

「俺個人としては別に咎めるつもりはないが、俺以外だと殺されてもおかしくないことはしたんだ。だから明日から教会に食糧の受け取りと全員連れて労働をしろ、その分の賃金は出す。条件として盗みは止めろ、分かったな。困った時は人を頼れ、教会なら俺もいる」

少年は涙を溢れさせながら感謝の言葉を述べた。

「キルマも教会で働くか? すぐに町の人とは打ち解けていただろ……そうすれば審判を下さなくても済むのだが」

「そうさせてもらいます、追われる生活はもうごめんですから」

「ねえねえお兄ちゃんたち食べないの〜?」

「僕たちだけで全部食べちゃうよ」

「「ね〜」」

「皆様ちょっと待って」

パーン!!

「メリークリスマ〜ス!! この掛け声が必要なんです。皆様も持って先ほどの私のようにしてください」

パンパンパーン

一同『メリークリスマス』

「来年は町中で楽しむとしよう!!」

そしてこの町からクリスマスが国中へ広がり毎年の恒例行事となるのだった。


おしまい

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