『指重』

―――この異能力が僕は嫌いだ。

 理由は単純だった。

 派手じゃない。

 強そうに見えない。

 使っても、誰も驚かない。

 黒部澄夜は体育館の端で、そっと人差し指を前に向けた。

 視線の先には、誰もいない床。観客もいない。

 ――ズン。

 空気が、ほんの一瞬だけ沈んだ。

 床に置かれていたボールが、わずかに転がって止まる。

 それだけだった。

「……今の、成功なのか?」

 澄夜は指を下ろし、自分の掌を見つめる。

 理力が減った感覚はある。確かに、何かをした実感もある。

 けれど、結果があまりにも地味だった。

 異能力が珍しくない世界で、

 この程度の現象は「気のせい」で片づけられる。

 炎を出す者がいる。

 雷を走らせる者がいる。

 身体を鋼のようにする者もいる。

 それに比べて、自分はどうだ。

 指を向けて、空気が少し重くなるだけ。

 昔テレビで見た競技異能。派手で見ててとても楽しかった。

 自分もいつかこの舞台に立ってみたいとも願った。

 生まれつきの才能――ギフトだと告げられた時、少しだけ期待した自分がいたのも事実だ。

 だけど現実はこれだ。

 競技異能向きでもない。

 見せ場もない。

 褒められることもない。

 澄夜は小さく息を吐いた。

 この異能のせいでいじめにもあった。


 ――この異能力が僕は嫌いだ。

 最初にそう思ったのは、いつだっただろう。

 検査の日か。

 それとも、初めて他人の能力を見た日か。

 体育館の向こう側では、誰かが理力を派手に放出している。

 歓声が上がり、拍手が起こる。

 澄夜はその光景から目を逸らした。

 知らない。

 知らないから、嫌いでいられた。

 ――この異能力が僕は嫌いだ。

 今は、まだ。



補足情報

黒部澄夜 人間種 17歳 高校2年生

異能力(ギフト):【指重】

指を向けた方向に“重力”を発生させる。


零峰高校所属。全寮制の学校。

クラスからいじめにあっている。

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「この異能力が僕は嫌いだ」なやつによる異能力バトル!! @TIG031

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