第2.5話 去年の体育祭

※このお話は読んでも読まなくても本編にはほぼ影響のない内容になっています。

1年生の時、燕と心花は同じクラス。


***



心花ちゃんはすごい。運動も勉強もできて可愛くて、みんなの憧れで。

そうだ、去年の体育祭なんて……。



クラス対抗リレー。全員強制参加の種目だ。

正直走るのは得意じゃない。なんなら運動が苦手だ。

な、の、に!


「どうしてアンカーの前なのおおおおお」


トラック1周400メートル。運動が得意な子用にトラック1周や4分の3周走る走順があって、逆に私みたいな運動苦手な子のために短い距離でいいところもあるのに。

私の走順はアンカーの前。ちゃんと200メートル走らなきゃいけない。


「何番で来ても誰も気にしないよ」


アンカーは心花ちゃん。それだけは救いだった。


「でも……」


もしこのままいい順位でバトンが回ってきたらどうしよう。

全部でクラスは5組。私たちのクラスは今2位。差はほとんどない。

そして私と同じアンカーの前を走る他の4人。私よりもうんと早そうだ。

抜かされたらすごく申し訳ない。


「燕ちゃんにしては珍しく弱気だね。女の子いっぱいのリレーだよ?見どころたくさんって昨日あんなに興奮してたのに」

「そうだけど……私のせいで心花ちゃんが1人で1周走ることになったらやだよ」

「ならないよ!もしなっても私は気にしない。燕ちゃんは走り切ることだけ考えたらいいから!ね!ほら、そろそろ出番だよ」


心花ちゃんに背中を押されて前に出る。





結果は散々だった。

2位で私に渡されたバトンは5位で心花ちゃんに渡った。流石の心花ちゃんでも2位の背中を捉えようとしたところでギリギリ3位に終わった。


「ごめん……っごめんね」


体育祭後、物置き部屋となった空き教室で私は涙を拭いながら謝る。

クラスのみんなにはもちろん、大変な思いをさせてしまった心花ちゃんにも申し訳ない。


「もういいよ謝らなくて。怒るよ」

「怒っていいよ……」

「はぁ……」


ぺし、と私の両頬を心花ちゃんの手が挟む。


「いい?抜かされても燕ちゃんが頑張って4位の子について行ったから私は2人も抜かせたんだよ。3位で終わったのは私の実力」


まっすぐ私の顔を見て言うから私は耳まで赤くなる。


「燕ちゃんは頑張ったよ!すごくかっこよかった!」


おいで、と心花ちゃんが私に手を伸ばしてくれる。

私は吸い込まれるように心花ちゃんの胸に飛び込んだ。


「よしよし。えらいえらい」


優しい手が私の頭を撫でてくれる。


「……心花ちゃん好き」

「……。あーあ、だめだよ燕ちゃん」

「だめじゃないよ」


撫でるのをやめて心花ちゃんは言う。


「だめだよ。今の燕ちゃんは疲れてるもん。正常な燕ちゃんに言って欲しいから」

「うん……」

「わかってくれてありがとう。大好きだよ」


ぎゅっと私を抱きしめて言う。

美少女のいい香りと汗の匂いが私の鼻腔をかすめていった。

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