第17話 休日

諸々の仕事がひと段落ついた。

スタンピード被害にあった村と人、軍人達、とりあえず全部を蘇生できた。

土地の浄化も終わった。

あとの復旧作業はその地に住む人たちと、国から専門家が派遣され行われるという。


聖石の点検、結界の貼り直し等も明日以降で大丈夫そうだ。


つまり、俺は暇になったのだ。

スケジュール管理をしていたフリージアさんが、物凄く目をキラキラさせながら、


「今日は一日ゆっくりすごしてください!!」


と言ってきた。

ゆっくり、過ごす……??

寝るしかおもいつかない。

とりあえず昼寝でもするか。


と、いうわけで二度寝というか昼寝をしてみたが30分程で終わってしまった。


「寝たので散歩に行ってきます」


一応、外出する旨を伝えるとフリージアさんが護衛のためついてくることになった。

それが彼女の仕事なので、断ることはできない。


「そういえば、ゆっくり街中をご案内していませんでしたよね。

いい機会なので、ご案内させていただきます!

慰労パーティーもスタンピードのせいで延期になっちゃったので、今日はパーッと遊びましょう!!」


というか、パーティーの話無くなったんじゃなかったのか。


フリージアさんはなぜかめちゃくちゃ意気込んで、首都の案内を申し出てくれた。

メインストーリートくらいしか行ったことが無かったので、お願いする。


案内は基本的なことから始まった。

首都の名前が【アルムブルク】であること。

政治の中心でもあるので、貴族様たちも暮らしていること。

こっちは商業区画、あっちは工業区画などなど説明を受けた。


そうしてあちこち案内してもらった。

途中途中で出会う人達から感謝され、なんかいっぱい物をもらった。

買い物してないのに、買い物をしたようになってしまう。


「これは、どういうことなんだろ?」


思わず呟くと、フリージアさんがおかしそうに笑う。


「シル様はこの国の危機をすくってくださった英雄ですよ?

皆、感謝してるんですよ。

頂いたものは、その感謝の証です」


野菜にお菓子に花、感謝の証は様々だ。

花は、屋敷に飾ってもらおう。

野菜と菓子は、さすがに一人分をゆうに超えるので屋敷で働く人達にも食べてもらおう。

しかし、


「英雄って、大袈裟な」


「いえいえ、スタンピードの一件から国の内外の貴族のお手紙が多くて。

ノア殿下がチェックするだけで大変だって言ってましたよ」


「手紙?」


アーヴィス国の貴族からならわかる。

なにか用事でもあるのだろうと予想がつくからだ。

しかし、外からというのがわからない。


「ヘッドハンティングみたいな内容の手紙ですよ」


「仕事の依頼ではなくて?」


確認が大変なら直接俺に届けてくれればいいのに。

今のところ、引き抜きが来たとしても断るだけだ。

しかし、


「ヘッドハンティングみたいな内容??」


どういうこっちゃ。


「端的に言うとですね、シル様を是非婿に、というお手紙です」


「……は??」


聞き間違いだろうか。


「だから全部断ってるんですよ。

シル様は忙しくしておられるし、実際、スタンピードの件があって、瘴気のこと魔物のことを同盟国含めて大陸中に周知されたでしょう。

アーヴィス国としてもそれどころじゃないので、この事態が落ち着くか、シル様が二十歳になるまでは、とお断りしてるんです」


「初めてきいた」


「そりゃ、初めて伝えましたから。

シル様は、ただでさえお仕事でお疲れなのに、負担をかけるわけにはいきませんから。

こうして聞かれたらお答えするよういわれていたのです」


な、なるほど?

まぁ、たしかに余計なことは考えず仕事に集中できたのはいいことだ。

でも、知らないって怖いなー。

俺は、一応、国を追放された身である。


それはそうと、二十歳まではこの国にいると認識されているのか。

次の聖女が決まるまでの代理なんだけどなぁ。

五年間は決まらないのか。

それでも最低年数なのだろう。

アーヴィス国は、他の国と比べて聖女が生まれにくいらしいし。

ただの確率の問題だとは思う。

案外、来年には【聖女】の職を得るものがいそうだ。


そうなると代理仕事は無くなるので解雇だ。

そうなったらどこに行こうか。

まぁ、それはそうなった時に考えればいいか。


串焼きの屋台で買い食いをしようとしたら、お代は要らないと言われてしまった。

そういう訳にもいかないのだが、


「シル様からお代なんて頂けない」


と固辞されてしまう。

困った。

フリージアさんを見たら苦笑している。

どうしよう、と考えているうちに店主が商品を包んで渡してきた。

押し付けてきたと言った方が正しいか。


「うちの娘が軍人でしてね、この前のスタンピードで命をおとしたんです。

でも、貴方に蘇生して貰ったんですよ。

だから、ささやか過ぎて怒られそうだがこれはそのお礼です。

娘を救って頂きありがとうございました」


「あ、そんな、どういたしまして」


こんな風にここに来てからお礼を言われることが、本当に多い。

なんというか、やはりムズ痒い。

けれど、笑顔で言ってもらえるとホッとする。


と、俺と串焼き屋の店主とのやり取りをみていた他の屋台の者たちが、次々と出てきて、これまた沢山お土産を貰ってしまった。

聞けば故郷の村がスタンピードで呑まれ、家族の行方がわからなくなったが見つかった人。

やはり軍人に家族がいて、生存を絶望視していたけれど再会できたこと。

瘴気による重症者が身内にいたけれど、俺の浄化のお陰で快癒した人がいた。


お土産ばかりをいただいて逆に悪い気がする。

フリージアさんに助けを求めようと視線を送ると、ニマニマして見守っていた。

どんな感情なんだろう、あのニマニマ。



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