第2話 人命救助と魔物退治
やがて目の前に現れたのは血の海だった。
近くには横転した馬車。
事切れた馬。
そして、ぐちゃぐちゃにされた人間だったもの。
それらを貪る、肉食の魔物たち。
俺はポリポリと頭を搔く。
頭を掻きながら、指を空中に滑らせる。
「
術式を展開し発動する。
光り輝く矢が魔物たちに降り注ぐ。
魔物たちに逃げる隙など与えず、すべて仕留めた。
ほかに魔物の気配がないか確認し、それからその場で事切れている者たち、馬も含めて全員を蘇生させた。
人数は五人程度。
これくらいなら、どうってことない。
すぐに目覚めるだろう。
俺は次に横転した馬車を、身体強化を使って元に戻す。
幸い壊れてはいないようだ。
魔物を解体し、素材として収集する。
それを聖女時代にこっそり作っておいた魔法袋へ入れる。
そうしている間に、起きるかなぁと思っていた被害者たちは、結局眠ったままだった。
馬だけが先に意識を取り戻した。
パニックになっていない。
賢いし度胸がある馬だ。
そのことに感心しつつ、俺は他のもの達の意識が戻ることを待ったが、中々戻る気配が無い。
「仕方ない。
結界張って、念の為さっき作ったポーション置いてこ。
起きたら飲むだろ」
本当は意識が戻ってからも、少し様子を見たかった。
何故なら、人によっては蘇生の反動で気分が悪くなるからだ。
その世話をするのは、正直怖い。
だから、もう少し待って彼らが目覚めなかったらここから離れようと決めた。
でも、出来るだけのことはしたかった。
時間が過ぎ、ここから立ち去ることにする。
――何がはいってるかもわからない、汚らしい液体なんて飲めるか――
叩きつけられてきた言葉が脳裏に蘇る。
最悪捨ててもらってもいい。
それも覚悟して、俺は念の為にポーションをその場に置いて、被害者達にさらに回復魔法をかけその場から離れた。
ポーションは無くても、素材が手に入ったのだ。
入国の税金分くらいにはなってほしいと思う。
それにしても……。
俺は被害者一行を振り返った。
その中に高貴な顔立ちの銀髪の青年がいる。
どこかで見たことあるんだよなぁ、あの人。
どこで見たのかは結局思い出せなかった。
※※※
朦朧とする意識で、銀髪の青年はそのローブを見た。
自分たちの目的地、聖王国の紋章が刻まれた神官用のローブだ。
しかし、大きなバツマークがついている。
「……っ」
待ってくれ、と声を出そうとしたがダメだった。
声が出なかった。
腕を伸ばそうとするが、うまく体が動いてくれない。
彼らを助けてくれた神官は、意識を取り戻した彼に気づくことなく、一度もこちらを見ることもなく去っていった。
少しして、ようやく完全に動けるようになる。
声も出る。
ほかの者たちも、次々と意識を回復していった。
なんと全員蘇生させられていた。
しかも、ポーションまで準備されている。
「いったい、何が起きたのでしょう?」
一人が青年へ向かってそう呟く。
「聖王国の神官が助けてくれたんだ」
青年はそう説明する。
他のもの達は納得した。
聖王国とは、この大陸で優秀な聖女を大勢輩出している国である。
聖女の優秀さもだが、彼女たちをサポートする神官たちもとても優秀なことで有名だ。
中には聖女顔負けの蘇生魔法を操る者もいるときく。
おそらく、彼らを助けたのはその一人だったのだろうと結論づける。
夢でなければ、それだけの証拠が残されていたからだ。
全員の体力魔力が回復していた。
彼らが意識を取り戻すまで、ほかの魔物に襲われないように結界が張られていた。
ポーションの置き土産まであり、しかも高品質だと一目でわかるほどのものであった。
「聖王国に着いたら、是非ともあの神官に礼がしたい」
そしてできるなら、こちらに来てもらいたい、と考えてしまった。
彼らの目的は聖王国の聖女を派遣してもらうことだ。
しかし、聖女などそう簡単に派遣できるものでもない。
というのも彼らの国、アーヴィス国には現在聖女がいないのだ。
さまざまな事情でアーヴィス国の聖女は、儚くなってしまったからである。
そのため、聖王国へ聖女の派遣を打診に来たのである。
事前に手紙は送ってある。
聖王国の国王からは一度、聖王国へ来てもらいもう少し話を詰めたいという返事をもらっていた。
聖女と、そして可能なら彼らを助けてくれた神官を連れて帰りたいと青年は考えていた。
なんとか聖王国にたどり着き、話し合いが始まった。
しかし、そこに王の姿はない。
体調が芳しくなく、伏せっているとのことだ。
筆頭聖女の治癒や回復魔法でも、王の体調はどうにもできなかったらしい。
会議の開始早々、青年――アーヴィス国の第二王子ノアは聖女のこともだが、件の神官についても派遣して欲しいと伝えた。
しかし、返ってきた答えは彼からすると意外なものだった。
「ご存知のことと思いますが。
神官はたしかに治癒魔法と回復魔法が使えます……ですが蘇生魔法は使えません。
我が国の神官もそれは同様。
聖女以外で蘇生魔法が使える者はいないですよ。
恐れながら、なにか勘違いしておられませんか??」
聖王国の大臣であり、聖女達のとりまとめ役目を務める老人が戸惑いつつも、そう返したのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。