聖女の仕事を奪っている、と言われ国外追放になった件
ぺぱーみんと/アッサムてー
第1話 国外追放
「というわけで、シル、お前国外追放な」
いい笑顔で雇用主であるこの国の第二王子、フェルナンドにそう告げられた。
俺は、目が点になり、
「は??」
そう返すことしか出来なかった。
「ほかの聖女達からも報告があがっている。
シル、お前が彼女たちの仕事を奪うだけでは飽き足らず、功績までも偽装しているとな。
直近では、国境付近での瘴気の浄化、西に位置するレズヴェルト領でのスタンピード。
他にもいろいろと仕事を奪い、功績を偽装してきたそうじゃないか?
弁明はあるか??」
いつも通りのどこか態とらしい、芝居じみた声音と動作つきで上司の第二王子は言ってくる。
「いや、弁明もなにも、それは」
俺は説明しようとする。
女性よりも体力のある男性なのだから、国中をあちこちまわって結界の維持、点検をしろと言われてきたから、その仕事をしてきただけだ。
国境付近の瘴気の浄化だって、誰も行きたがらないのは明白で遅かれ早かれ仕事を振られるのはわかっていた。
だから浄化しに行っただけだ。
スタンピードの件だって、国の宝であり国防の要である聖女達が怪我をしたら大変だからと割り振られた仕事だっただけだ。
俺は仕事をしただけだ。
「いや、言い訳は結構だ。
とにかく、筆頭聖女達からお前をなんとかしろと苦情が凄いのだ」
だからって、国外追放はないだろう。
あとそのわざとらしい演技っぽい動作やめろ。
「男の聖女なんていう、この国に気持ち悪い存在は要らないんだよ」
こちらの言葉なんて最初から聞く気は無いのだ。
いつもそうだ。
この人は、いつもそうなのだ。
一方的にフェルナンド王子は告げると、嫌味ったらしい笑みを浮かべる。
しかし、はいそうですか、と引き下がれない事情が俺にもある。
「なら、せめてセレス様に挨拶を」
しかし、この言葉がフェルナンド王子の逆鱗に触れてしまった。
セレス様、というのは彼の姉君で次期女王と目されている方だ。
俺をここに連れてきて色々お世話になった人でもある。
最後に別れの挨拶と、せめてあの方にだけは不敬なのは重々承知だが、礼を述べたかった。
しかし、それは許されなかった。
最後に叩きつけるように言われたのは、やっぱり嫌味ったらしいどこか芝居がかったセリフだった。
「シル、今までありがとう。
国に尽くしてくれたお前のこと、忘れないよ」
ニヤニヤと嫌味ったらしい笑顔でわざとらしく言われてもムカつくだけだ。
俺は恩人に挨拶もできず、こうして聖王国から追放されたのだった。
……どうしよう、仕事の引き継ぎできなかった。
せめて、引き継ぎはしておきたかった。
結界のはりなおしとか、そういうの。
※※※
「これからどうしよう」
必要最低限の荷物だけ持って、生まれ育った国を出た。
銀行に預けていた金ですら差し押さえられていた。
無一文である。
途方にくれながら、他国へ続く街道を歩く。
唯一、支給されていた見習い神官のローブを着てこれただけでも良しとしよう。
本来、聖女には相応の衣装が与えられるが、男の俺にはそれが無い。
なので男女兼用神官のローブが支給されていたのだ。
ローブの背中には聖王国の薔薇の紋章がある。
今は大きくバツマークがその上から描かれていた。
追放されたからである。
【聖女】、それが俺の神から与えられた職業であった。
今から五年前の十歳の時。
神殿で適正職を調べる儀式にて、発覚したのだ。
もちろん、俺も含めその場の全員がなにかの間違いだと思った。
【聖女】とは国のために身を捧げる役目をもつ、神聖な女性限定の職業だからだ。
それがなにをどう間違ったのか、俺に与えられてしまった。
きっと神様がミスしたとしか思えない。
そこから五年間。
セレス様の助力もあり、俺はほかの聖女達に混じって勉強し、修行をし、働いた。
働きまくった。
でも、セレス様からフェルナンド王子のもとへ異動が決まると生活は一変した。
異質な存在だからと、周りの目は厳しく、態度は物凄く冷たくなった。
冒険者よりも過酷な労働環境だったかもしれない。
冒険者だって、より良い活動をするために睡眠時間を確保するものだ。
けれど、聖女の仕事は多忙だった。
俺に割り振られる仕事は、多岐にわたり、それらをミスなくこなす事が、前以上に求められた。
ミスなく完璧に仕事をこなす、そうしなければむち打ちが待っていた。
傷は治癒魔法と回復魔法でなんとかなった。
でも、それらのことで確信した。
フェルナンド王子は俺で、セレス様への鬱憤を晴らしているのだと。
俺は多忙すぎて、睡眠時間は削るのが普通。
倒れたら、ポーションをバケツいっぱいぶっかけられ復活させられる。
そうして働きまくってきた。
もしかしたら、死ぬのを期待されていたのかもしれない。
それはともかく。
ついにフェルナンド王子は聖女の仕事を盗んでいたということにして、俺を国外追放にすることを決定したのだ。
別に、仕事ぶりを評価してほしいと思ったことはなかった。
気持ち悪いと石を投げられても平気だった。
だって与えられた職を全うするのが良い事なのだと、教わってきたから。
国民は、慈愛に満ちた笑顔を向け、世のために人のために身を粉にして働く美しい女性の聖女を求めた。
筆頭聖女のルリなんて、皆から愛されている。
フェルナンド王子からの愛だけは、特別なようだが。
とにかく業務連絡で声をかけただけで、冷たくされる俺なんかとは違った。
「とにかく、隣国へ行ってみるか?
身分証ないから、中に入れるかわからんけど」
国外追放というのは、つまり犯罪者ということだ。
身分もなにもかも取り上げられた自分が入国するのは厳しいだろう。
「いや、でも税金払えば入れるんだっけ?
国によって違うんだっけ?」
とは言っても、無一文だ。
なんとか隣国に着くまでに金を作るしかない。
幸いというべきか、お金を作るアテはある。
「ばあちゃんに感謝だ」
今は亡き、俺を拾って育ててくれた老婆。
昔はそれこそ有名な聖女の1人だったと聞いたことがある。
俺を拾った頃には、山奥で隠遁生活をしていた。
彼女は俺に、少なくとも食いっぱぐれない方法を叩き込んでくれていたのだ。
街道を少し外れれば、魔物の生息地がある。
そこで、魔物を倒し素材を集めればいい。
魔物から取れる素材は金になるのだ。
薬草と水があれば、ポーションだって作れる。
少ないが、ポーション用の空瓶はなんとか持ち出すことができたからだ。
もちろん薬草だけでも売れる。
それらを街道を行き交う行商人に交渉して、売るか
物々交換をすればいい。
やり方は、ばあちゃんに教わっている。
――――――――
――――
――……
俺は街道から外れ、道無き道を歩く。
やがて薬草の群生地を見つけた。
近くに清流もあった。
「運がいい」
俺は早速ポーションを作った。
持っている空瓶は、すぐ全て満たされた。
「次は魔物退治だ!」
国外だからか、あちこちで魔物の気配がする。
その気配を頼りに移動しようとした時だ。
血の匂いに気づいた。
風に乗ってきたのだろう。
神経を研ぎ澄ませる。
微かに悲鳴のようなものが聞こえた気がした。
「……こっちか?」
俺は、匂いと悲鳴のようなものが聞こえてきた方向へ足を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。