青龍
昨日の希望
第1話 プロローグ
「大名の話によると、奴はこの森の中に現れたそうだが……」
数十万という旗本の小隊とその長・勇者は、果てしない草原にポツリと立ち尽くした。
「勇者殿、大名の情報は絶対です」
通信インフラの無い異世界では、通信網と言えば人の動きが不可欠。大名は、魔術師から得た情報を信じていた。
「この森の中をずっと探しているが、ちっとも見つからないや! 図体がデカいんだからすぐ見つかると思ったのによ」
「魔術師が居れば、こんなに人集めなくても良かったのにな」
「てやんでい! 俺たちの剣にかかれば、どんなモンスターもチョチョイのチョイよ」
モンスターは破壊の限りを尽くして暴れる存在。倒すべき存在なのだ。魔術師や旗本は、モンスター討伐の為にクエストと言う仕事をこなす。
モンスターと同じ扱いを受けるのは、獣族だ。
獣族とは、人間とモンスターの二つの外見を併せ持ち、どちらにも変身できる種族。獣族はモンスター同様、人々から忌み嫌われていた。もし獣族が人間に姿が見つかってしまうと、人間に剣で切りつけて酷い仕打ちにあう。マスカラも獣族として誕生し、いつも青龍という名で呼ばれるため名前で呼ばれたことがない。
突然、地面が激しく揺れ始めた。
「地震だ!」
小隊が次々と膝を折り、崩れ落ちていく。奥の闇から巨大な影がゆっくりと、確実に迫ってくる。
「で、出た!」
「ママー、死にたくないよー!」
悲鳴と叫びが交錯し、小隊は大声を挙げながらパニックの渦になる。
サファイアのように光り輝く鱗が、数十万人の視界を塞ぐ。
青龍が口をパクパクさせながら小隊の方を向いている。
超音波だ。青龍は、人間の聴覚で感知しない音を出して炎を発生させる。メカニズムは、空気を一秒間に数万回振動させ、摩擦熱などが発生させている。
「伏せろ!」
勇者が小隊へ叫びながら指示した。
小隊の背後の木々がキャンプファイアのように燃え、焦臭さと焼けるような熱波が辺りに広がっていた。
「撤収だ! くっ、おのれ青龍め」
勇者は舌打ちをしながら小隊を率いて踵を返す。甲冑の擦れ合う音が徐々に小さくなり、やがて沈黙だけが残った。
眩い光が煌めく。青いポニーテールの少女がうつ伏せになりながら地面に横たわっていた。
「……ふぅ、やっと……帰っ……た」
少女は、一生誰とも関わりが無いと思っていた。でも、あんな形で鈴木真人との出会いがあるなんて。
青龍 昨日の希望 @lessentielle
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