「好き」が言えない俺達は、今日も健全な幼馴染を演じ続ける
四条 葵
第1話 幼馴染は偽る
俺、
お嬢様のように清楚で、学園一の美少女などと言われている、それはもうとてつもなく美人でスタイルもいい幼馴染だ。
名を、
薄桃色の艶やかな長い髪、白磁のような透き通った真っ白の肌に、形のいい唇。目はぱっちりと大きく、伏せた睫毛は影が落ちる程に長い。
そしてすらっと伸びた細い手足に似合わない、高校生にしては実り過ぎた大きな二つの果実。
美人な上にスタイルも良く、品もいいし性格もいい。
まさに物語に登場する完璧なヒロインのような幼馴染だった。
そんな桃葉は、俺が幼馴染だから、という理由だけで今も傍にいてくれる。
なんて幸運なのだろうか。
生まれてすぐにこの女神のような幼馴染に出逢い、高校生になった今の今まで共に時間を過ごせるなんて、誰がどう見ても羨ましいだろう。
「司くん、おはようございます」
駅のホームで電車を待っていると、桃葉から声を掛けられた。
「ああ、おはよう」
今日も今日とて可憐で美しい俺の幼馴染は、花が咲いたようにふわっと微笑んだ。
隣に並んだ桃葉は、俺の顔を下から覗き見る。
「司くんは、相変わらずとってもクールですね?」
「そうか?」
桃葉の言葉に、俺は淡々と返す。
「ふふっ、そうですよ」と口元に手を当てて笑う桃葉に、周囲にいた人までもが目を奪われる。
それはそうだ。こんなにも美人で、こんなにもスタイル抜群なのだから、誰だって目で追ってしまうだろう。桃葉がモテるのは校内だけではないのだ。
そして次に視線が突き刺さってくるのは、その隣にいる俺。
俺は比較的容姿が整っている方だ。イケメンと言っていいだろう。加えて背も高い。
桃葉の隣にいる俺を見ると、大抵の人は勝ち目がないと思うのか、さっと視線を逸らす。
ただ単に俺の目つきが悪いだけかもしれないが……。
しかし、どちらにしても好都合だ。
俺は桃葉に好かれるために努力し、守るために鍛えている。
その辺のただ桃葉の隣を羨ましがって、なんの努力もしない男とは違う。
幼少の頃から牛乳を飲みまくり、適度に運動し筋肉をつけ、勉学に励んだ。
それもこれもすべて、桃葉に好かれるためだ。
美人で可憐な桃葉の隣にいるためには、俺もかっこいい男にならなくてはならない。
幸い桃葉に今まで色恋の噂はなかった。告白は多くされているはずだが、どれも断っているようだ。
ここで完璧なイケメンであるように見える俺の弱点だが、簡単に言うと、チキンである。
桃葉のことがずっと好きだというのに、告白できずに周りを牽制するだけ牽制して、桃葉が告白を断っていることにほっとしているようなチキンなのである。
なんて情けないんだ……。
しかし、この幼馴染という関係だけで繋がり続けている俺達の関係が、もしかしたら変わってしまうのではないかと思うと、それはもう怖くて怖くて仕方がないのだ。
夜にそのことを考えて眠れなくなるくらいには、めちゃくちゃ怖い。
桃葉と他愛もない会話をしていると、電車がホームに滑り込んできて、俺と桃葉はそれに乗り込んだ。
通勤、通学のラッシュ時間とあって、車内は死ぬほど混んでいた。
「桃葉、こっち」
しばらく開くことのない乗車扉の前に桃葉を誘導した俺は、他の乗客から守るように桃葉の前に立った。
背中からぎゅうぎゅうと押されるが、華奢な桃葉を潰すわけにはいかない。
今こそ、鍛え上げた俺の筋肉が力を発揮するときだ。
しかし、駅に到着する毎に、車内にはますます人が増えて来る。
なんとか踏ん張っていた俺は、思わず桃葉の顔の横に手をついてしまった。
「…………っ!!」
桃葉と至近距離で目が合う。
俺は慌てて視線を逸らした。
そうして冷静さを取り戻すために、大きく息を吸い込む。
しかし内心はそうもいかない。
(可愛いーーーーーっっっ!!!! 俺の幼馴染、超可愛いーーーーーっ!!!!)
無感情を装ったクールな見た目に反して、脳内の俺はもうどんちゃん騒ぎである。
桃葉、と背中に書いた法被を着て、ペンライトを振りまくりなのである。
言っていなかったが、俺は別にクールな人間じゃない。
桃葉が以前、クールな男の人が好き、みたいなことを言っていたから、そうやって振る舞っているだけであって、めちゃめちゃ普通のその辺の男子高校生である。
髪だって本当は金髪に染めたかったが、清楚可憐な桃葉が黒髪好きなため、金髪に染めるのを諦めただけだ。
そうやって日々頑張ってクールぶっている俺に、桃葉は時たま俺の心を乱すような大胆な行動を起こす。
桃葉が俺の背中に手を回し、ぎゅっと俺を抱き寄せた。
そうして少し照れたように頬を染めながら、上目遣いにこう言った。
「……司くん、大丈夫ですか? 私のことは気にせず、もう少し、こちらに来てください……」
桃葉を潰さないように必死だった俺は、桃葉に抱き締められて思わず力が抜け、そのまま桃葉の方に体重を預けてしまう。
「…………あっ…………んっ」
少し苦しそうに小さく呟いた桃葉に慌てて視線を落とすと、俺の固い胸に桃葉の豊満すぎる柔らかい胸が押し付けられていた。
(…………おっ、ぱ…………!!!!!!!!)
大きなメロンのような胸は、むにっと柔らかに形を変えて、俺に押し付けられている。
なんて美しいのだろうか。大きさ、形、柔らかさ。
どれもパーフェクトなまでに美しかった。
自身の手で揉めないことが悔やまれる…………。
いや、触れられているだけで十分柔らかくて気持ちいいのだが、揉みしだくことができたのなら、どれほど気持ちがいいだろうか。
そんな邪なことを考えていると全身が急に熱くなって、俺は慌てて桃葉から離れた。
「悪い……大丈夫か?」
クールな俺を装って慌てて確認すると、桃葉は「大丈夫、です……」と顔を真っ赤にして呟いた。
(いや、その表情も可愛すぎるんだが!?!?)
お嬢様のようにお淑やかな桃葉は、きっとしんどくてもはっきりとは口にしない。
(桃葉はいつも、どんなことを考えているのだろう……?)
幼馴染なのだから、もっと自分の気持ちをはっきり言ってくれてもいいのに。
俺はいつもそう思っている。
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