アルキメデスの点

鮫島竜斗

第1話 変項X

「おら!働けぇ!」


 アーニャはくすんだ金髪を掻き分けながら注射の準備をする。


「全く無能な看護師だ」


 アーニャは看護師である。そして今二十時間労働を強いられている。


「なぜ、こんなにも忙しいのか?」


 この世界は階級制だ資本家、貴族、そして 労働者。


 そして、労働者には厳しい社会だ。労働者は自由を売り払う自由しかない。


 アーニャはあせあせと仕事をした。


 そして眠気と共にボロアパートに着くと。


 一人の男がいた。

 

 その男はいかにも、まあ少し時代がかった言い方をすればヒッピーのような。


 そして男は言う


「やあ、」


 男がなにかいう前にアーニャは拳銃を取り出す。


「おや、僕は撃てないよ……僕は資本家だからね」


 と、男がいうと札束を見せつける。


 この世界は金がなく全て。アーニャのような一介の看護師が札束を持ち歩いて男を撃てない。


 この世界にはかつては、名目上は平等な治安維持組織があったが、効率化及びを世界が入手にするために民営化された。


 それはつまり雇い主次第で治安維持組織はいくらでも買い取れる。


 それが出来ない貧乏人は自分で自分の身を守るしかない。


 そう、拳銃を持ち歩く女なんて資本家にとっては恐れるものではない、なぜなら裏側にプロの軍隊がいるのだから。


「…………」


 アーニャは緊張のあまり、言葉を発することが出来ない。


「まあ、そう気構えないで、この世界のを教えてあげるわけだから」

 

 男はそう言うと、


 何もない空間から半透明のガラス板を取り出す。


 VR?アーニャはそう思う。そして、だがそれをアーニャ自身に見せる必要はないとアーニャは思う、そしてVRのコントロールパネルはもっと綺麗だ。


 男がガラス板を弄ると。


 世界が


 アーニャと男だけになった。


「な!なに」


 アーニャがそう言うと


「うん、まあ暗号化を施されたブラウザに強制的に君と僕を移動させた、そしてここは仮想マシンの中だ自動監視プログラムや監視者集団はこちら側のログを見れない一種の抜け穴だ」


 男の説明にアーニャは全く付いていけない。


「ああ、端的に言おうこの世界は全て仮想世界で一種のシミュレーションワールドだ映画でよくあるだろう、だが一ついっておこうこの世界からの解放は僕の目的ではない、なぜなら現実世界には僕も君も帰るべき場所、端的に言って


 アーニャは


「身体がない……?」


 と不思議に思うこの手の実は世界は仮想世界で現実世界に戻り、が定石だ。


「この世界は君……いや君たち労働者にとって残酷だなぜなら君たちは搾取されるために産み出されたのだから」


 男がそう言うと


「君たちはAIだ、というか労働者は全員AIだ、しかも一種のバグを抱えている、それは心だ」


 と添えた。


「心がバグってどういうこと?」


 アーニャは訪ねる


「うむ、そうだねこの世界は、ワールドスピリッツ、は貴族や大半の大資本家がで君たち労働者のほぼ全てがAIつまり、この世界を維持するための駒だ、たちはこう思った、世界を幸福に生きたいと、そしてワールドスピリッツは最適的な形でそれを叶えた、そして人間に模して人間に似たAIを産み出した、それが君たち、そして人間を模しすぎて心が生まれた、人間ではない心にワールドスピリッツは配慮しない、それだけだ」


 アーニャは酔狂だと思った。この男の酔狂だと。


「まあ、実感してもらおうか」


 アーニャは突然、男の言葉が真実である抗えない気持ちになる、そして疑った自分を理解できなくなる。


「これは、芸術家志望の人間に配慮したプログラムの亜種でAIの感情に干渉することができる、つまり君は僕に喜怒哀楽や憎愛を抱かせる、まあ、最も人間の大半は無意識にこのプログラムを使ってるんだけどね」


 アーニャは男の言葉を全て受け入れる。それはまるで教祖の言葉のように


「と、プログラムを強制終了するか」


 アーニャの心が変わる、この男に対する信頼感が消える。


「アーニャ、君をまず救おう、つまり人間にする」


 男は


「私のユーザーIDはKarlMarx000085、また世界精神の大きな、修正不可能なバグだ」


 アーニャは

「XXXXXXXXXX」

 とだけ言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アルキメデスの点 鮫島竜斗 @MRGmarx

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ