鳥御門家の卵

櫻庭ぬる

第一話 

 わたくしが初めて産卵致しましたのは、丁度、十六になった翌日でした。




 勿論、精を受けてはおりませんので、無精卵ということになります。

女子おなごが十六を迎える頃に産卵が始まるというのは、鳥御門家とりみかどけの中では当然のことでございます。


 それでもやはり、十六の年が近づいてきますと、怖いと云う気持ちが強くなって来たものです。


 鳥などであれば、案外あっさりと産みましょうが、わたくしどもは人型。

赤子の頭大あたまだいの卵を産みますから、痛みもそれなりのものなのでございます。


 あの身体が壊れてしまうのではないかという感覚が忘れられず、次の産卵を思うと、わたくしは身の内が冷える思いでした。


「まぁ。これで鳴々緒ななおも、大人になったわね」


 わたくしの不安をよそに、一族は大層喜んで目出度めでたい、目出度いと言い合っております。

初めての産卵は鳥御門家では喜ばしいことで、赤飯を炊き、その産んだ卵を使った卵料理が家の者に振る舞われるのです。


「じき、つがいも選ばねば」


 初産の後にはそんな話になることも、この家では当然のことでございました。

わたくしは顔を俯けました。

わたくしの顔は屹度きっと、赤くなっていたことでしょう。


 番、と云われて、一人の殿方のお顔が思い浮かんだのです。

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