消滅と愚者

@reonarudo324

開演 :消滅の意志

2025年12月23日午後17:30分。これはこの世の頂点が決定された瞬間の時刻である。誰かが言った「全力の霜月蓮と消滅の王。勝つのってどっちなの?」本来ならそれはただの幼稚の空想に過ぎない。ただ行き過ぎた伝説は強者の好奇心を揺さぶって仕方がない。そこまで行けば娯楽とまで進化するのが空想と言うものだ。故に、こうなることは必然だったのだろう。


「人の意思とは脆弱だ。だからこそ、娯楽を与えなければ枯れてしまう。そう思わないか?霜月蓮」


消滅の王はその空間内で両手を広げ疑問を投げかける。ここはGMによって構築された特別な空間。この空間は独立した世界として顕現しているため、他世界に影響を与えることは決してない


「.......私は願っていたよ。こんな日が来ないことを」


霜月は悲しそうにそう呟いた後、顔から完全に笑みが消えた


「甘いなぁ、霜月蓮。ずっと考えていた。あの時は俺も全力ではなかった。そしてお前も全盛期ではなかった。だから、ここで決めよう。ここでお前を殺せれば、俺は全ての世界を消滅させることができる。手始めに、お前の女でも殺してみようか」


「(もちろん、ハッタリだ。俺はもう世界を壊すことをやめた。だが関係ないんだ。この言葉が真実でも嘘でもな)」


消滅の王の言う通り、この言葉が嘘であっても真実であっても関係がない。霜月にとってほんの少しでも皆に、ルーディアに危害が加えられる可能性があるのなら......。


「そうかい、ならばここで......君を殺して終わらせようか」


本気で目の前の脅威を排除する以外の選択肢がない。霜月は神刀:天叢雲剣を顕現させて構える。


「随分と調子に乗ってるみたいじゃないか。まだ自分が頂点だとでも思っているのか?愚者」


消滅の王は一番得意とするナイフを右手に持ち戦闘体勢を取る。こうして始まることとなる。消滅と愚者、その最終決戦が。あの日、誰かが投げかけた問いの続きが.....。


〜観戦者〜


その2人の勝負を観測する者達は、とある空間の中に集められていた。ここは望んだ存在全てが入ることができる。今朝アライアンス内で噂になったせいか、その場には多くのエージェントや裏社会の存在が入り乱れていた。目的は皆同じ、頂点という存在を目に刻みつけるためだ


「まさかお前達もここにいるとは。旬、護」


その場にいた又理が2人の名を呼んで近づく。すると声をかけられた2人は当然と言った顔で霜月蓮と消滅の王を眺めていた


「父さんが勝つとは思ってるけど.....相手は消滅の王だから。少し、怖くなって.....」


「......父さんが勝つ。ただ無傷ってわけにはいかない。だから、終わった後体を支えるためにここへ来た」


2人の返答を聞いた又理は口角を上げ、画面に映る2人に視線を飛ばした。


「始まるね」


又理が呟いたと同時だった。両者はスクランブル交差点を模した場所で地を蹴り、一瞬で間合い内へと相手を入れた。画面の速度は等倍速となっていて、大半の存在は2人の動きを目視することすらできない。だが一部の者達には見えていた。光速を遥に超える速度で接近した両者が、中心近くで斬り合いを行っていることが......。


「お前の神刀と剣技は知っている。万物を切断する神具であり剣技。流石の俺の肉体もそれには耐えられないだろう。だから、対策させてもらったぞ」


消滅の王は言葉通り、霜月との斬り合いを互角に進めていた。理由は単純明快、消滅の王はナイフと拳を霜月の神刀の側面に当てて弾いていたのだ。これにより霜月の神刀と剣技が意味を成す事はない。理論上可能な対抗策、だが霜月蓮相手にそれを実現できる存在がこの男以外にいるだろうか?


「感心しないね。そんなに不完全な対処を対策と豪語するのは」


だが消滅の王は理解していた。目の前にいるのは他でもない霜月蓮。この策が長く機能する事はない。瞬時に斬り合いの中で斬撃の一つが軌道を変える。先ほどまで縦に迫っていた斬撃が、突如として横薙ぎへと変化したのだ


「.....やはり厄介だな。その剣技」


消滅の王はそれを回避するためにバックステップを行うが、完全に回避しきれず多少胸を浅く切られる。だが霜月相手に手を止めたら終わりだ。消滅の王の行動を読んでいた霜月はすでに拳銃を抜いて発砲していた


「(弾丸程度で俺を止められるはずがない。なんだ?何かのブラフか?それとも弾丸自体に細工がされているのか?)」


消滅の王は魔力探知を行うが弾丸から特殊な魔力は感じない。それを完全なブラフと呼んだ消滅の王は弾丸を無理やり喰らいながら前に出る


「わかっていたよ。君ならそれを見破って前に出てくると」


霜月は既に神刀を鞘に納め、居合斬りの体勢へと移行していた。そこで消滅の王は自分のミスに理解する


「(ハッ、前に出たばかりのせいで回避が一手遅れるか)霜月蓮!楽しませてくれるなぁ!」


これでは剣技を躱せない。だが一度でも食らえば一刀両断されるだけだ。ならばと自身の持つ権利である【逸脱者】を発動させて全力で両腕をクロスさせる


「神斬:天変逆劉」


その斬撃は間合い外まで瞬時に届く広範囲の斬撃。消滅の王はそれをモロに受けるが権利の力もあってか切断される事はなかった。だが勢いを殺せるわけもなく、後方のビルへと一瞬で吹き飛ばされ、霜月の視界内にあった全てのビルは神斬の範囲内に入り最も容易く切断され崩れ去っていく


〜観戦者〜


「..........父さんが押してるな」


「頑張れ!父さん!」


多くのエージェントがその光景に歓声を上げるが、又理だけは冷静に状況を分析していた


「(剣技では霜月の方が上なのは確かだ。それを消滅の王も理解しただろう。なら、霜月の独壇場が長く続く事はない。消滅の王、あいつは紛れもない.....天才だ)」


「そういえばさ、なんで父さんは愚者のアルカナを使わないの?今のだって権利を消せてたら勝てたんじゃない?」


護はふと疑問に思った言葉を投げかけるが、旬と又理はそれを否定する。


「そもそも権利が使えないなら消滅の王もあんな迂闊に行動はしない。だが俺も疑問だな、なぜ父さんが愚者のアルカナを使わないのか」


「まず消滅の王にはアドミニストレータっていう切り札がある。あれを撃たれて相殺か無効化できなかった場合霜月の負けは確定する。だがそれ以外にもう一つあるんだよ、霜月の負けが確定する事象は。それが愚者のアルカナ状態で殺されること。愚者のアルカナは例外なく権利や力が消える。だから、霜月のオートで発動する【自分が死ななかった"もしも"の世界線への移行】が無くなるんだ。その状態で殺されたら、問答無用で霜月は死ぬ」


「だがそれでも愚者のアルカナには【黎明終焉ジ・エンド】がある。あれを撃てれば勝ったも同然だ」


旬は又理の言葉に疑問を投げかけるが、それはたった一言で説明することができる


「【消滅の王は天才】だ。それこそ、土壇場でアドミニストレータを顕現させるほどに.....。だからこそ、霜月は警戒してるんだ。愚者のアルカナを発動してもそれを無力化する何かを土壇場で生み出すかもしれないと.....」


「色々難しい話をしたが、結局は単純だ。もし消滅の王に大きな隙ができれば愚者のアルカナを対策する暇もなく完全に詰め切れる。もし霜月に大きな隙ができればアドミニストレータを顕現させ愚者のアルカナを使う暇を与えず詰め切れる。つまりこの勝負.....」


「先に大きな隙を見せた方が負け....ってことか」


旬は納得したように画面へと視線を戻す。すると戦場がまた動き出したようだ


「驚いたな。どうやら刀を持ったお前と真正面からの戦闘は俺ですら勝てないみたいだ。だから、少し俺好みに戦場を整えるぞ!」


消滅の王は笑いながら素の筋力でビルを持ち上げて霜月目掛けて投擲する。だがこの程度の攻撃が霜月に当たるはずもない


「さぁ、完成だ」


消滅の王近くの壊れたビルが大量に地面へと投げつけられて四散した。結局一発たりとも霜月に当たらなかったが、消滅の王の狙いは別にあった。


「なるほど、確かにこの不安定な足場では刀より素の肉体で戦闘する君の方が有利のようだね」


霜月も理解している。剣術にとって足場はとても重要だ。それこそ熟練者ほど腹の下の力が強い。故に足場に負荷が掛かりやすく崩壊しやすい。この時点で霜月の剣技はかなりの弱体化を喰らうこととなった


「だが、私をあまり舐めない方がいい。残念ながら、君の目の前にいるのは歴代最強のエージェントなのだよ」


その言葉と同時、霜月が一瞬で消滅の王との距離を詰めて斬り合いを行う。だが消滅の王はその場で立ち止まって斬り合う事はなく。不安定な足場を最大限活かすように縦横無尽に動き回りながら斬り合いを続ける。だがその最中、消滅の王は強烈な違和感に襲われる。おかしいのだ。霜月の足場が一切崩落しない。確実に刀を全力で振るっている。なのになぜ、霜月の足場が崩落しない?


「ハッ、ハハハハハ!霜月蓮、お前はまさか!」


そこで消滅の王は気づく。霜月の足元に僅かながら魔力を感じたのだ。この男にとって真実に辿り着くにはその情報だけで十分だ


「空気を魔力で囲い、【空】を足場にしているのか!」


そう、霜月は領域展開の魔力による外郭構築を応用し足元に小さな領域を形成。領域内に固有能力を付与しない縛りを使い外郭の硬度を最大限に強化。こうすることで霜月は空を足場とすることを可能にしていた。その事実に消滅の王も、又理や旬も驚愕していた。そもそも領域展開の内容をポンポンと変更することももちろんそうなのだが、光速以上の速度で動き回っているのに必要最低限の大きさで足場となる完璧な位置に毎回領域を展開する。それはもはや理論上可能なだけの空想論に他ならない。卓越した魔力操作と脳の高速演算処理。その二つが他を圧倒的に凌駕する霜月だからこその芸当。また一つ、霜月は不可能の壁を越えた


「素晴らしい、よく気づいたね。だが、少し遅かったようだ」


「チッ!」


いくら素の肉体とは言っても足場に負荷がかかるのは消滅の王も同じだ。限界が来た足場は一部崩れ、それにより消滅の王の体勢が一瞬だけ崩れる


「私はね、皆から託されているんだよ。約束されているんだよ。ならば、ここで負けることは決してない」


愚者の決意は揺るがない。そのまま最短最速の突きが消滅の王の心臓目掛けて突き出される。消滅の王は全力で体をずらし心臓部分は回避するが、左肩に神刀が突き刺さった


「(あれだけ体勢を崩し隙をついても心臓を躱すか。なんとも規格外の男だ)」


霜月はすぐさま貫いた神刀を引き抜こうとするが、あまりの筋力に神刀を一瞬で引き抜くことができない


「負ける事は決してない?そういえば、俺が滅ぼした世界の守護者も似たようなことを言っていたぞ」


霜月は一瞬だけ隙を見せてしまった。すでに消滅の王のナイフが神刀を持つ霜月の腕を切断しにかかるが、霜月は神刀から手を離そうとしない。なぜなら今の霜月は発現しているのだ。【超共感状態】を......。


「ハハッ!ハハハハハハ!」


「.........チッ」


そうして霜月の予想を裏切って、消滅の王のナイフは霜月の神刀を握っていた右腕を切断した。霜月は瞬時に追撃を警戒しバックステップで消滅の王と距離をとる


〜観戦組〜


「な.....」


「嘘.....父さん!」


観戦組はその光景に驚愕する。しばらく見ていなかったのだ。あの霜月蓮が傷を負う瞬間なんて.......。


「だがなぜだ?父さんは超共感状態を発動していたはずだ」


旬は当然の疑問を口にする。超共感状態とは一度見たことがある技を確定で回避する力だ。ナイフでの斬撃など父さんは腐るほど見ているはずだ。だというのにどうして.....。


「消滅の王は完全に対策していたんだよ。霜月の超共感状態を.....」


そこで又理は口を開く。どうやらこの男は何が起きたのか説明できるようだ


「消滅の王の魔力は【逸脱者】を利用して攻撃をするごとに変化しているんだ。確かに魔力を付与した攻撃程度なら超共感状態で回避できる。だが消滅の王は魔力の中でも特殊なものに絞って変化させている。それこそ純白の魔力と同じ系統だな。そして、消滅の王が今纏っている魔力は俺ですら見たことがない。恐らく別世界の魔力に似た何かなんだろう。それのせいだ、霜月の超共感状態が機能しないのは.....」


「つまり、消滅の王は攻撃するたびに自分の魔力を別世界の何かに変化させてるってこと?」


「あぁ、そういうことだ。つまり、霜月の超共感状態は完全に対策されてるってことだ(魔力が変われば普通は気づける。だが消滅の王の魔力が濃すぎるせいでその変化を見ることができなかった。ここまで思考を一点集中させてようやく気づけたんだ。戦闘中の霜月が気付けるはずがない)」


「だが攻撃するたびに別世界の何かに魔力を変化させるか......。知識量と魔力操作、さらには脳の演算能力。どうやら消滅の王も父さんに並ぼうとしているらしいな(魔力操作は父さんの方が上だ。だが知識量と演算能力は........互角か)」


皆の顔に不安が宿る。霜月蓮の敗北など誰も信じることができない。だが今目の前で、不可能だと思っていた霜月蓮への致命傷を消滅の王は可能にした。だからこそどうしても頭に浮かんでしまうのだ。【霜月蓮の敗北】という最悪の結末が。


「さぁ霜月蓮、ここからはステゴロだ」


消滅の王は左肩に刺さった神刀を引き抜き、権利を使い消滅させる。今この状況で武器を生成する事はできない。そんなことをすれば一瞬で消滅の王に心臓を貫かれるだろう。だからこそ、霜月は今ある武器で戦闘を続行するしかない


「ふふっ.....まさか、ここまで追い詰められるなんてね。だが勘違いしていないかい?」


霜月は切断された腕を拾い、魔力を糸状に変化させて傷口を縫い合わせ神経も完璧に繋げ完治させる。本来これも理論上可能なだけの技術なのだが、霜月の魔力操作にとってこの程度造作も無い


「私の最も得手とする戦闘方法は、搦手を最大限活用した死闘だ」


霜月の靡いたスーツの内側に煙幕弾やクナイなど数多くの搦手道具が見える。そう、霜月蓮の本領はここからなのだ。霜月蓮はIFを身体能力強化にしか使っておらず、その他は全て魔力操作の応用でしかない。故に、霜月はまだまだ魔力に余裕があるのだ。だが消滅の王も大量に魔力を消費しているが底が一切見えていない


誰かが言った。勝つのは歴代最強のエージェントにして、世界を幾度となく救ってきた黎明の愚者である霜月蓮だと


誰かが言った。勝つのは世界を一度滅ぼし、この世界ですら単独でほぼ壊滅まで追い込んだ厄災の具現化である消滅の王だと


誰にもわからなかった疑問と妄想は。今この瞬間、現実となってしまった。


「私は災害だ。ただ無慈悲に、全てが消える」


「俺は厄災だ。祈りは届かず、許しは与えず.....全てが等しく、塵も残さず消滅する」

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