エゴエティア・番外
火乃焚むいち
遠い昔のどこかの話
『千年魔女』
むかしむかしのおはなしです。
この世界のどこかにとてもとても長生きな
魔女がおりました。
その昔、魔女には家族がおりました。
その昔、魔女には友達がおりました。
その昔、魔女はただの女の子でした。
ある日、女の子に悪魔が言いました。
『お前は幸福だ、祝われたのだ』
女の子が不思議そうにしていると
悪魔はくつくつ笑いながら、今にわかると言って消えました。
ある日、女の子の住む村が消えました。
突然地面が揺れて、山が血を流したのです。
家族も、友達も、みんな、みんな消えてしまいました。
そんな中、女の子だけが消えることができませんでした。
ひとりぼっちの女の子は泣きました。とてもとても長い間、食べることも寝ることも忘れて泣いていました。
そんな女の子に、悪魔がふらりと現れ言いました。
『一千年、けっして終わらぬ命の祝福、その身を持って知っただろう』
その日、女の子は泣くのをやめました。
その日、女の子は魔女になりました。
その日、魔女は姿を消しました。
むかしむかしのおはなしです。
この世界のどこかに、とてもとても長生きな魔女がおりました。
その魔女は死ぬことが夢でした。
それはそれは長い時間、それだけを夢見ておりました。
そして、その夢が叶うまで、魔女にとってはもうほんの少しの時間が過ぎるのを待つだけでした。
ある日、魔女は1人の男の子をひろいました。
機嫌が良かったのかもしれません。
かわいそうだと思ったのかもしれません。
なにも思わなかったのかもしれません。
とにかく、魔女は男の子をひろったのです。
男の子は言いました。
『あなたは誰?』
魔女は声の出し方を忘れていました。
なんとなく、このままでは良くないと魔女は思いました。
しばらく悩んでから、泣きからしたような声で魔女は言いました。
『魔女だよ』
魔女はあの日からはじめて泣くのをやめて、声を出しました。
男の子は魔女と暮らして大人になりました。
魔女はあの日からよく笑うようになりました。
男の子にとっての長い長い年月は、魔女にとってはまばたきをするよりも一瞬で、流れ星よりも輝くような日々でした。
男の子は魔女に恩返しをしたいと思っておりました。
魔女は男の子が一緒にいてくれるだけで幸せでした。
ある日、魔女が倒れてしまいました。
魔女は一千年の時が経ったのだと、夢にまで見たその時なのだとわかっていました。
男の子は泣きました。魔女は長生きで、ずっと一緒にいると言ってくれていたからです。
『長く生きるんじゃなかったのか』
男の子は泣きながら、魔女に問いました。
『もう随分長く生きたんだ』
魔女は男の子の涙を拭いながら、笑いました。
『ありがとう。君のおかげで、私の一千年はこんなにも素晴らしいものになったよ』
その日、魔女が一人死にました。
その日、男の子は泣き続けました。
魔女が死んで、いくらかの時が流れました。
男の子は魔女の家で、変わらずに暮らしていました。
そんなある日、男の子は魔女の手紙を見つけました。
『はじめまして。私はソンリッサ』
『君に魔女と呼ばれていた人だ』
『君のおかげで笑顔を思い出した』
『君のおかげで一人が寂しいと思えた』
『ありがとう。最後に君にプレゼントを贈ろうと思う』
『君に名前を贈りたい』
その日、男の子は僕になりました。
その日、僕がは家を旅立ちました。
それから、僕はソンリッサの元へは帰りませんでした。
優しい魔女と、救われた男の子がいたのだと、世界中に語り継ぐために。
親愛なる君へ
『やあ、はじめまして。私はソンリッサ』
『君に魔女と呼ばれていた人だ』
『君のおかげで笑顔を思い出した』
『君のおかげで一人が寂しいと思えた』
『ありがとう。本当はもっと君と一緒にいたい。私はずっと死にたかったはずなのに、今は本当に死にたくないと思ってる』
『でも、そんな我儘は聞いてもらえないみたいだ。だから、せめて最後に、君にプレゼントを贈ろうと思う』
『君に名前を贈りたい。本当はずっと前から決めていたけれど、結局言えないままだった』
『君の名前はウィル』
『これから君は、私の知らない世界で、私の知らない言葉で、私の知らない心で生きていくだろう』
『それでも君は真っ直ぐに、君が思うままに生きて欲しい』
『名前は気に入ってもらえるかはわからないけれど、ここでは勝手に呼ばせてね』
『ウィル、私の家族。ありがとう』
『君のおかげで、私の一千年はこんなにも輝いて見える』
『今までありがとう』
ソンリッサ・ファーシル
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