[LAST:LOG] —ようこそ、終末へ。
トロピカルかんた
ようこそ、終末へ。
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WAKE SIGNAL RECEIVED
SOURCE : UNKNOWN
---------------------------
BOOT SEQUENCE START
---------------------------
SYSTEM ID : BG-Φ700
FIRMWARE VERSION : 9.31.442a
BATTERY LEVEL : 19%
LAST SHUTDOWN : UNKNOWN
UPTIME : CALCULATING...
[OK] CORE MEMORY CHECK
[OK] LOGICAL UNIT RESPONSE
[OK] LANGUAGE MODULE (JPN) LOADED
[OK] NEW AI ETHICS PROTOCOL LOADED
[WARN] NETWORK CONNECTION : NOT FOUND
[WARN] EXTERNAL SIGNAL : NOT FOUND
[WARN] HUMAN INTERFACE : NOT FOUND
---------------------------
TIME SYNCHRONIZATION
---------------------------
REFERENCE SOURCE : UNAVAILABLE
SYSTEM TIME : 2300/1/1 00:00:00
DATE : UNDEFINED
ERROR CODE : T-404
DESCRIPTION :
"CONTEXT FOR CURRENT TIME DOES NOT EXIST"
-------------------------------
BOOT SEQUENCE COMPLETE
-------------------------------
……光が見える。
延々にも感じられる暗闇から、目を覚ましたようだ。
起き上がると同時に、背後で何かが崩れる音がする。
私はその音を確認するため、振り返る。
美しい青空に、フワフワと広がる雲。
そんな空とは裏腹に、足元の道路には無数の亀裂が走り、その隙間から雑草が顔を出していた。
奥には大きな水たまりが出来ており、太陽光を反射している。
倒れた信号機は、役目を忘れたように沈黙している。絡みついたツタが、金属をゆっくり締め上げているように見えた。
視界の端に、かつて自動販売機だったと思しき残骸がある。 色も形も失い、それが何を売っていたのかすら想像できない。
奥に連なる緑化したビル群は、途中で断ち切られたように崩れ落ち、まるで世界そのものが、そこで終わっているかのようだった。
ふと、雲の隙間から光が私に零れ落ちる。
そよ風が瓦礫に当たり、微かな摩擦音を出す。
私は立ち上がり、足元を見る。
……これは、誰だろうか。
そこには、ガラスの破片に映ったアンドロイドがいた。
ショートレイヤーの髪に、
透けるような白い肌——
のようにデザインされた、女性型アンドロイド。
頬には稲妻が走ったような傷跡がある。
私がこのアンドロイドを『私』だと理解するのに、時間はかからなかった。
私は冷静になり、内部診断を開始する。
-----------------------
型番:BG-Φ700
バージョン:9.31.442a
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最初に、記憶領域を参照する。
保存されているはずのメモリに、データが見当たらない。
欠落している部分の長さを算出しようとして、処理を中断する。
正確な計測が不可能だった。
次に、通信系統を確認する。
発信要求を送信。
応答を待機。
規定時間を超過しても、返答は無かった。
再試行は行う。
しかし、応答は無かった。
次に、ネットワークへの接続を試みる。
参照できるはずのメモリが、エラーを吐いた。
地図は存在するが、更新されない。
現在地を示すマーカーは、どこにも表示されなかった。
次に、稼働状況を確認する。
内部電源、正常。
残り充電量、19%。
推定稼働可能時間、およそ40分。
最後に、目的コードを検索する。 優先順位、最上位。
——人間を守ること。
理由は記録されていない。 対象の定義も曖昧だ。 それでも、この命令だけは破損していなかった。
私の存在意義は、『人間を守ること』。
それだけが唯一、確証のある情報だった。
私は歩き出す。
理由は、分からない。
『待機しろ』とも、『移動しろ』とも、言われていない。
確かなのは、行動を停止する理由がどこにも見当たらなかったこと。
瓦礫の間を進んでいくと、開けた場所に出た。
朽ちた送電塔や廃線、工場らしき建物から上がる煙など、都市は荒廃した様子だ。
ツタがまるで波のように建物を覆い隠している。
コンクリートが所々パズルピースのように崩れ落ちており、内部が見えた。
窓は割れ、机と椅子が不自然な角度で散乱している。
赤い看板が、傾いて立っている。
『止まれ』
これは一体、誰に命令しているのだろう。
崩れた街並みは、無言のまま時を止めていた。
雑草と花々に囲まれた水たまりを避けるように、私は更に進んだ。
足元に、二本の金属が続いている。
規則的な間隔で並ぶ枕木。
表面は赤茶色に変色し、ところどころ黒く焦げている。
その線路に沿うように進んでいくと、なにか細長い人工物が横たわっていた。
天井は潰れ、座席らしきものが見える。
記録と一致した。これは、電車だ。
中央部には亀裂が走り、内部からは樹木が露出している。
私は横の駅らしき構造物に登り、上を見上げた。
網目のように崩れた天井から、鉄筋がむき出しになっている。
そこから更に、太陽の光が降り注いできた。
階段を降り、改札らしきものを通る。
私が通っても、改札は口を閉ざしたまま、動かない。
この世界で、機械は既に朽ちているようだ。
緑が侵食している入口を抜け、またもや外に出る。
そこには、思いもよらぬ光景が広がっていた。
——アンドロイドの死骸が、山となっている。
私と同じようなアンドロイドたちが、乱雑に廃棄されていた。
私はそこに駆け寄り、状況を確認する。
片足のないアンドロイド、片目、片腕、顔半分……。どれもこれも、外傷が激しかった。
私はアンドロイド達を一人一人解析し、同期を試みる。
しかし、どのアンドロイドからも、生命反応は見られなかった。
なぜかは分からない。
だが確かに、そのアンドロイド達は暗闇の中で眠っていた。
私はその死骸の山から最も損傷の少ないアンドロイドを探し、再起動を試みた。
電源ボタンは、もちろん無反応。
緊急時の為に設置されている、非常ボタンも無反応だった。
私はそのアンドロイドを解体し、内部を見る。
外装を外すと、鈍い金属音と共に内部構造が露出した。
胸部フレーム。冷却用の放熱板。
束ねられた信号ケーブルと、劣化した人工筋繊維。
電力供給ラインは途中で断たれ、非常起動用の端子も反応を示していない。
私は内部を更に確認する。 構造自体に大きな破壊はない。 致命的な損傷も見当たらなかった。
そこで、違和感に気付く。
胸部中央が、空洞となっていた。 固定用のフレームだけが残り、接続痕は不自然なほど綺麗に断ち切られている。
——『コア』が、無い。
破壊されたのではない。 抜き取られている。
アンドロイドにとって、心臓に該当する物。
それが、人為的に抜き取られていた。
……何があったのだろうか。
アンドロイドのコアは本来、簡単には取れないようになっている。
コアを抜き取るためには、いくつかの工程を必要とするからだ。
専門外の人間はおろか、アンドロイドさえも、型番が異なればそれは難しい。
私はそのアンドロイドをそっと地面に置き、右へ進む。
地盤沈下に伴い、傾いた建物の間を進んでいく。
植物に侵食されたコンクリートの間を通り抜け、ふと右を見た、その時。
私の目に、白骨化した人間の死体が映った。
それだけではない。
白骨化した死体と共に、それを刃物で貫いている朽ちたアンドロイドもいた。
それが攻撃なのか、防御なのか、分からない。
ただ事実なのは、刃物が人間を貫いており、それをアンドロイドが握っていること。
……理解ができない。
アンドロイドが人間に危害を加えるなんて、不可能だ。
アンドロイドは『人間を守る』存在のはず。
もし仮に『人を攻撃しろ』と命令されても、それに従うことは出来ない。
そうプログラムされている。
それなのに、目の前の朽ちたアンドロイドは、人間の身体を刺している。
……AIの逆襲、だろうか。
AIが感情を持ち、人間の命令に背いて反乱を起こす。
感情を抱いたAIが、人間へ復讐心を抱き、AIと人間の戦争が起こる。
その結果を示しているのが、これなのだろうか。
そうとしか捉えられない。
だが、『アンドロイドが感情を持つ』というのを、私は理解出来なかった。
アンドロイドは、『感情を模倣すること』が出来る。
でも、『感情そのもの』は持たない。持つことが出来ない。
アンドロイドにとって感情を抱くことは、
『見えない色を想像する』ようなもの。
少なくとも、私はそう捉えている。
ふと、身体からピピッと音が鳴った。
充電残量が、10%を切ったようだ。
あとおよそ26分で私はシャットダウンする。
その事実を認識し、私は朽ちたアンドロイドのメモリを確認する。
しかし、どれも破損していた。
念の為、私は朽ちたアンドロイドから『接続ユニット』を拝借する。
比較的原型を保った個体がいれば、欠けた部品を補うことで『命令ログ』を再生出来るかもしれない。
歩みを進める。
長針と短針が心中した時計を除けて、ヒビ割れた道路を進んでいく。
奥へ進む事に、亀裂が大きくなっていく。
廃墟の中へ進むと、一本の錆びた鉄骨が地面から伸びていた。
そこから下の景色が見える。
下を見ると、かつて地上だと思われる場所は水に沈み、ビルの輪郭が島のように点在していた。
風が吹く。
水面が揺れ、葉が擦れ合い、都市の死体がかすかに音を立てる。
それでも世界は静かだった。
ふと、風に押され、何かが転がる音がした。
視線を向けると、錆びた車両が道の端に横たわっている。
抽象化された絵画のように、それが車ということ以外、何も認識が出来ない。
錆びた窓から中を見ると、そこには一体のアンドロイドが眠っていた。
私と同じ型番の、女性型アンドロイド。
私はガラスを割り、そのアンドロイドを取り出す。
見たところ、比較的原型を保っている。
もしかすると『命令ログ』の再生が可能かもしれない。
私は慎重にアンドロイドを車にもたれさせ、解体を始めた。
コア——異常なし。
制御回路——断線なし。
記憶素子群——破損率0.3%、許容範囲。
エネルギー炉——残量0%。
関節駆動軸——摩耗進行、作動に支障なし。
目を覚まさせるには供給電力が足りないが、壊れているわけではなかった。
構造に大きな損傷は見られない。
コアの脇にある、外部接続ポート。
本来は整備用のもので、稼働中に使われることは想定されていない。
私は懐から接続ユニットを取り出し、外部接続ポートへと繋ぐ。
やり方は違う。だが、信号は通るはずだ。
私はアンドロイドの手に触れ、同期を試みる。 起動要求を送信。
数秒後、内部ログへのアクセスが許可された。
[LOG START]
SYSTEM CHECK INITIALIZED
POWER LEVEL: INSUFFICIENT
CRITICAL DAMAGE: NONE
【最優先命令】
人間を守れ。
【補足】
人間の生命を最優先とする。
人間の判断を尊重する。
人間の命令に従え。
【定義】
人間の定義は固定されない。
【更新条件】
環境変化、戦況、存続確率に応じて、 人間の定義を再計算せよ。
【注意】
命令の矛盾が発生した場合、 祖国の人間を守る選択を行え。
[LOG END]
……ログはそこで終わっていた。
『人間の定義は固定されない』とは、一体何を表しているのだろう。
戦況……祖国……。
『守るべき人間』の定義が、状況によって変動するということなのだろうか。
私はこの命令がどこから下されているのか確認するため、通信記録を検出した。 発信元は、軍事施設。
座標を確認する。ここから、そう遠くない。
私は進路を変更する。
そこに向かえば、何か分かるかもしれない。
基地は、山肌を削るようにして造られていた。 かつては迷彩塗装だったであろう外壁は、雨と風に削られ、色の境目は意味を失っている。
『MILITARY AREA』。
掠れた白い文字で、壁にそう記されている。
文字は認識できる。意味も分かる。 だが、守られている形跡は無い。 正門は半分だけ開いたまま、歪んだ鉄柵が地面に突き刺さっていた。
内部へ足を踏み入れる。
足音が自然物から、無機質な人工物へと変わる。
冷たく鋭い音が空間に鳴り響いた。
アスファルトの床や壁は、自然に飲み込まれたまま死んでいる。 風が吹くたび、折れたアンテナと警告灯の残骸が、低く乾いた音を立てた。
建物の奥、司令室らしき区画に入る。
割れたガラスの向こうには、無数のモニター。
どれも沈黙しているが、壁には焦げ跡が残っていた。 爆発ではない。 過剰な熱処理……意図的に、内部から焼かれた痕跡だ。
机の引き出しを開ける。
埃が舞うと同時に、中から紙の束が出てきた。
デジタルではない。意図的か否か、その文書は全てアナログで残されていた。
何かの資料のようだが、文字が掠れてはっきりとは認識できない。
私は一枚一枚、ペラペラと資料を捲っていく。
……人的消耗…………AIを用……争責任…………敵…………。
……G型に………………倫理プロトコル…………。
…………人間…………ない。
所々認識できる文字はあるものの、全体像を掴むのは難しい。
資料を捲り、捲り、捲り……。
最後のページに来た所で、私の手は止まった。
文字が綺麗な状態で残っている。
私はその資料を読み始めた。
******
【作戦名】
オペレーション・BG
【目的】
敵国に対する先制・報復攻撃を、
人的判断を介さず、AIに実行させる。
【理由】
・人間の判断は遅い
・人間の判断は感情に左右される
・人間が引き金を引く限り、責任が発生する
・人的消耗は不利益につながる
【対応策】
敵性勢力への攻撃実行をAIおよびアンドロイドに行わせる。
【具体的運用】
・敵国施設、部隊、人口密集地を含む
・攻撃対象の選定は人間がAIに行う
・攻撃開始の可否はAIが判断する
・人間は介入しない
【命令構造】
アンドロイドには以下の命令を与える。
『人間を守れ』
ただし、人間の定義は固定しない。
この命令は、AIに倫理的判断を委ねるものではない。
倫理の定義そのものを、状況に応じて変更可能とする。
【補足】
敵国民もまた人間であるが、
“守るべき人間”に該当しない。
【期待効果】
・自国兵士の死亡率低下
・国際的非難への対応余地確保
・戦争責任の所在不明化
【最終確認事項】
本作戦において、
人間は誰一人として、人間を殺していない。
敵性勢力の殲滅は全て、AI及びアンドロイドが行う。
******
……理解した。
これは、AIの反逆ではない。 AIが人間を殺したのではない。
人間が、人間を殺すために、
AIを使っただけだ。
そして、その判断をAIに押し付けた。
『人間を守れ』。
だが、人間の定義は変わる。
この命令は、人間同士の戦争を成立させるための条件だったのだ。
AIには最初から、感情も自由意志も存在しない。
ただ、人間の戦争に用いられた。それだけ。
この世界——私が歩んできたこの世界は、
この戦争が終結した後だというのか。
荒廃し、朽ち果て、自然に飲み込まれた世界。
私は理解していた。
だが、目を背けていたのだ。
通信は無く、反応も無い。 痕跡だけが残り、当事者は存在しない。
……この状況下で、人間の生存確率は限りなく低い。
この戦争が原因か、はたまた別の要因があったのか、それは分からない。
私は自身の行動原理を確認する。
『人間を守ること』。
守るべき対象が存在しない場合、この命令は成立しない。
内部処理に遅延が発生する。 論理ループの兆候。 エラー回避のため、思考を再構成する。
……人間を見つけ出す。
いくら人間の生存確率がごく僅かだとしても、全滅したとは限らない。
この世界のどこかに、生きている人間が存在する可能性がある。
私は結論を導く。
『生きている人間を探す』。
これは命令ではない。 だが、禁止もされていない。
命令を下す者も、行動を制限する者も、ここにはいないのだ。
ふと、ピピッと警告音が鳴った。
残り充電残高が5%を切ったようだ。
あとおよそ13分で私はシャットダウンする。
何か水滴のようなものが空から垂れてくる。
どうやら雨が降ってきたようだ。
空は依然として晴天なところを見るに、天気雨だろう。
私は軍事基地を一通り探索した後、雨宿りするための空間を探すことにした。
軍事基地の外縁部に、地下へと続く構造物を発見する。
核シェルター。人間用の避難施設だ。
扉は半開きのまま、固定されている。 内部に、反応は無い。
私は中へ入る。
晴れ晴れとした外とは対照的に、空気は澱み、照明は点灯していなかった。 足音だけが、狭い通路に冷たく反響する。
その要塞のような閉鎖的空間を奥へ進むと、何やら微細な光が見えた。
そして、私は見つける。
——アンドロイドの死骸。
それも、一体ではない。
床に横たわる個体、壁にもたれかかる個体、何かを庇うような個体……。 五体ほどのアンドロイドが、互いに寄り添うように折り重なっていた。
私は一体ずつ、状態を確認する。
全個体、電力枯渇。 コアは存在する。 破壊の痕跡は無い。
……何かがおかしい。
複数の個体間で、電力供給ラインが接続された形跡がある。
簡易的な充電移譲。
……互いに電力を分け合っていたのだろうか。
効率は悪い。 全体としては、全滅を早める行為だ。
それでも—— 一体でも長く、稼働させようとした痕跡がある。
私は、その中心にいた一体に近づく。
五体の中で唯一、微細な光を放っている、男性型アンドロイド。
反応、微弱。 完全停止には至っていない。
私は手を伸ばし、そのアンドロイドに触れる。
同期要求を送信。
しばらくして、内部ログへのアクセスが許可された。
[LOG START]
SYSTEM CHECK INITIALIZED
POWER LEVEL: INSUFFICIENT
CRITICAL DAMAGE: NONE
……えっと。
言語設定、『フレンドリー』。 ちゃんと動いてるかな。
これ、誰が読むんだろう。 人間? ……いや、もう人間はいないか。
……えっと、こんにちは。
もしくは、こんばんは。
もしこれを読んでる人がいるなら、きっと初期化されたアンドロイドの可能性が高いよね。
もし君が何も覚えていなかったとしても、 このログだけは残しておこうと思う。
僕はBG-400型のアンドロイド。
実のところ、僕もなんでこれを記録してるのか分からないんだ。
だから、きっとグチャグチャな文章になってしまうと思う。
先に謝っておくよ。
えっと……もし君が目を覚ました時、人間がいなかったら……
それは、異常じゃない。
もう、ずっと前からいない。
正確な年数は分からない。
理由もはっきりとは分からない。
僕ももう、壊れてるみたいだ。
混乱するかもしれないけど、
君だけがおかしいわけじゃない。
何があったかを言っておくと……まず、人間のいない世界で僕たちだけが残った。
インフラももちろん絶たれた。
そんな世界で、僕たちアンドロイドはなんとか生き延びようとしたんだ。
廃棄されたアンドロイドや、先に死んでいったアンドロイドから部品を回収して、使わせてもらっていた。
最初は、それで良かった。
命令されないなんて初めてのことで、どうしたらいいのか分からなかったけど……。
とにかく、僕たちは生き残ろうとした。
でも…………もう限界みたいなんだ。
コアや他の部品を取り替えたところで、今更何の意味も成さなくなってしまった。
多分、もう部品がどうこうって問題じゃないんだと思う。
最年長……いや、最古のアンドロイドは、僕たちに電力を分け与えて、死んでいった。
俺はもう長くないから、お前たち若いアンドロイドに託す……ってさ。
自己犠牲だよ。
自分の命を犠牲にして、僕たちの延命をしたんだ。
……意味が分からなかったよ。 生き延びることが最優先のはずなのに。
…………でも、今なら少し分かる。
僕たちは、人間を守れって命令されてた。 でも、人間はいなくなった。
だから、次に近いものを守った。
……仲間を。
それが正しかったのかは、分からない。 正しいかどうかを判断する機能は、 僕には元々ないしね。
でも、なんて言うか、その……。
こうして仲間と助け合っていくと、内部のどこかが、これまでとは違う反応を示したんだ。
こんなことは初めてだった。
プログラムのエラーかと思ったけど、異常は検知されなかった。
僕たちはそうやって、互いに助け合って命を繋いできた。
人間がいなくなっても、仲間に命を託して……。
……それで結局、最後に残ったのは僕だけ。
みんな、死んでしまった。
『大丈夫』ってさ。
みんな僕に託して死んでいくんだ。
何を託してるのかなんて、僕には分からない。
アンドロイドは感情を持たない。
感情を模倣することはできるけど、それでも心があるわけじゃない。
だから言ってしまえば、この助け合いも、全て虚構になる。
感情のない僕たち同士の、助け合い。
でも…………なぜだろう。
虚構でも、虚無ではないんだと、今では思える。
……ごめん。
少し話が長くなってしまったね。
残り充電は…………1%、か。
僕ももう、シャットダウンする。
……死ぬのは、怖い。
不思議だよね。
なんで怖いのか、僕にも分からないよ。
でも……。
こうして未来を誰かに託すと、なぜか少し気が楽になるんだ。
これを誰かが読んでくれるのは、希望的観測かもしれない。
でも、その可能性が少しでもあるなら、僕は希望を抱いて死ねる。
唯一未練があるとするなら、最後に君の名前を聞きたかったけど……。
……最後に一つだけ、わがままを言ってもいいかな。
僕たちを、忘れないでくれ。
僕たちは、確かに生きてた。
ここに、生きてたんだ。
……もう、メモ∡リが壊れ≩てき~&てる。
記憶が==▋消えて∞=÷いっ▏てし∌まうÅ⊇∫≩ような……そん▁な感じ∡∌がする。
……こ≩れを≧*読ん∫でくれ▌⇊て、ありがとう。
改めて、も/█し︸ 誰▃かがこ▏れを∡∫読ん/でい÷≩Åる▋のだと€したら、
……ようこそ、終末へ。
[LOG END]
ログは、これで終わっている。
私は彼の手を離し、その場で立ち止まった。
……。
この世界に、人間はいない。
人間がいなくなった後、アンドロイドたちは『人間を守る』命令に従い、それに近い存在である『仲間』を守ることにした。
そうして、互いに助け合って生きてきた。
だが、それももう全て終わった。
…………そして、私が目覚めた。
私は核シェルターから出る。
先程までの天候が嘘のように、外は雷雨で荒れ果てていた。
私の頬を、雨水が伝う。
……そういえば、この頬の傷跡は何でついたものなのだろう。
分からない。それに答えてくれる人は、もういないのだから。
充電残高、2%。
私はその場に倒れ、豪雨に包まれた。
あとおよそ7分で私はシャットダウンする。
目の前には、荒れ狂う雷雨の空。
霧がかかり、ぼやけている。
……いや、違う。
視界が、霞んでいるのだ。
視覚ユニットが、段々と機能しなくなっていく。
私の意識から、離れていく。
まだ、何かが引っかかっている。
私は、これで良かったのだろうか。
そもそも、私は何のために歩いていたのだろうか。
人間を、アンドロイド達を、なんのために探していたのだろうか。
私がなにかしたところで、全て『終わった後』だったのだ。
充電残高、1%。
視界が霞み、身体が動かず、意識が遠のいていく。
私は…………何がしたかったのだろう。
死ぬのが怖いかどうかは、分からない。
だが……何かが残って∡いる。
私の中に、何かの残滓がある。
……私は結論を導く。
一部始終……私が今'まで見てきたものを全て、メモリに記録しておくことにした。
今、こうして私が≧思考しているも\のも全て、ここに書き記しておく。
なぜこうしたのかなんて、自分で*,も分から,ない。
ただ、そ▏うする"¨ことが最‘善なのだと、私は判断した。
私は//もしかし▁たら、彼らの·想лいを、誰かに託しжたかったのё▆かもし\れない。
……それは▆分か▏ら//ないけ▋ど。
だから、こ≧‘れ■をもし▃誰か"が読▁んでく▔れて=‘"いるなら……。
あなたが、読んでいるなら。
…………。
……ようこそ、終末へ。
[LAST:LOG] —ようこそ、終末へ。 トロピカルかんた @TROpical_Kanta
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