ka-ra-da
沙華やや子
第1話 ファイトを萌やす
「あ!
「おはようございます、
名帆は独身42才。
『訪問介護事業所さみだれ』にヘルパーとして勤め出して4年になろうとしている。だいたいお仕事は直行直帰。つまり、自宅から利用者様のお家まで行きお仕事をし、そのまま帰宅するのだ。
名帆はこの度、新たにヘルパーサービスを契約された障碍のある男性のお宅を担当することになったので、事務所へ一度寄った。名帆は身体障碍をお持ちの利用者さんのお宅で仕事をするのは初めてだ。
事前に、どういった障害をお持ちの方なのかは聞かされていた。交通事故で右膝の下からを欠損され、外出の際は杖と義足を使ったり、車椅子を使ったりされる。お家では車椅子だそうだ。おトイレや入浴といった身の周りのことは、だいたいご自分でされるので「さみだれ」としては家事援助を引き受けたのだ。
「準備できた? 名帆ちゃん」
北田さんは、この道15年のベテランヘルパーさん。親切なお姉さん的先輩だ。
「はい! 北田さん、行ってまいります!」
「うん、よろしくね! あ、今日から直帰でOKです!」
「分かりました、先輩。いってまいりま~す!」自転車で元気に出発した名帆。
秋晴れが心地よい。初日でこんな爽やかだなんて、幸先良いな! 名帆のポニーテールも弾んでいる。
(ウフ、今日のお仕事が終わったら明日はお休み!
名帆には3年交際している恋人、武がいる。明日は久しぶりに遊園地デート、楽しみでたまらない。
(よし! お仕事がんばろう!)
……ここだな。
ピンポ~ン……。
しばらくすると玄関越しに「は~い」と明るい男性の声がした。
「こんにちは、さみだれから参りました、
ガチャ! 扉が開いた。そこには車椅子に乗った……年の頃は自分と同じぐらいだろうか、笑顔の綺麗な男性が居た。
少し見惚れてしまった。
(ハッ……あたしとしたことが。武が居るのに! それにお仕事、お仕事!)
「こんにちは! どうぞ」
車椅子を慣れた手つきで自在に操りながら、由奈さんに招かれた。
お部屋は……どこ掃除すんの? という感じ。スッキリ片付いている。恐らく、車椅子で移動しやすいようにまめに片付けられているのだろう。
彼は身体に障碍を負ったが、24時間介護が必要なわけではないのだ。
「どうしたの? キョトンとしてますね、松田さん?」
優しい笑顔のイケメン……。
(どうしたの、ってどうしよう……。あたし今きっと目がハートよね?)
「いえ、お部屋がピカピカなものですから……」
「ああ、自分で言うのもなんですがまめなんですよアハハ」
つられて笑顔がこぼれる名帆。
「ンー、でもわたしは仕事で参っておりますので、お掃除して欲しいとお思いの箇所を遠慮なくおっしゃられて下さいね」
「あ、はい、そうですね。じゃあまず……お風呂とおトイレをお願いいたします」
(あたし、はりきっちゃう!)
「はい、かしこまりました」
由奈さんは「じゃあ僕は仕事を続けますね!」と言われた。
「はい!」車椅子でリビングへ向かう前由奈さんは「広告代理店の在宅ワークです。書類整理!」ニッコリ。
ポー……。
(おっといけない、いけない。時は金なり。ふぁいとだ名帆!)
自身に言い聞かせ、お風呂掃除から取り掛かる。
ピッカピカにお風呂を磨き上げ、扉をそっと開けた時、ちょうど松葉杖を両脇に抱えた由奈さんが近くに居た。
「ちょっと、失礼」お風呂場の隣にあるおトイレに入った。
由奈さんがおトイレに入られている間、掃除機が部屋の片隅に見えたのでかけ始めることとした。
ブ~ン……。あ、由奈さんが出て来られた。
そして「ありがとう、松田さん気が利きますね! 助かります」ですって! 褒められちゃった~!
そして掃除機はひとまず置いておき、由奈さんに言われた通りおトイレ掃除に取り掛かった。お風呂にしてもそうだが、おトイレも綺麗だ。使い方だろうなー。名帆は色んなお宅を訪問するから、様々なお宅の様子を見ているのだ。
お次は掃除機掛けの続き。
「がんばりやさんですね! 松田さん」
(なんだか……由奈さんが喋るたびに『丘の上から王子様が笑いながらこちらに駈けてくる』イメージが湧くのはどうしてだろう。あ、武...ゴメン)
「いえ、仕事ですから。なんでも気になる事がおありな時は気軽に仰られて下さいね!」
「はい、ありがとう」
緑色の風だわ……。ソヨソヨ~。
お掃除はひと段落。お次は調理。
「由奈さん、お食事は今日何を作ればよろしいですか?」と腕が鳴る名帆。
「あぁ、今日はね、カレーをお願いします。きのう僕が材料を買って来たので」
していないのに、由奈さんが喋ると、もれなくウインクが付いてくる感じ。ドキドキ……。
「はい!」
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