上代の頃、時の帝が建てた宮には、世の
種々を壁に柱に描かせて、万物をその宮に
再現させようとした時のこと。
絵師に技を競わせて、遂に二枚の匠が
勝ち残る。
一人は、山川草木蟲魚禽獣を悉く鮮やかに
描き出し、それらは生命を得て動き出すと
讃えられた『花浦』の匠。
いま一人は、と或る貴人の家の壁に描いた夜空の様が、星一つ一つ悉く真の夜天と
相違いなき色と輝きを放ったという、
『鞍崗』の匠。
帝よりの課題は 卵 それも、北方の
雪と風の中に生きる、まさに白々と光る
白鵠の真白き美しい卵を描く事で、雌雄を
決する運びとなったが…。
雅やかで端正な文筆に流れる、其々の匠の
焦燥と苦悩。この世で最も鮮烈な色彩の
対比で描き出す、匠たちの戦いと顛末は
如何なるものだったのか。
故に、北方に於いては夜が昼を凌駕する
そんな不思議な物語である。