本当に受験生なんだよね君

らぷらの

本当に受験生なんだよね君

「クリスマス過ぎたら急に年末って感じになるよねー」

 シャーペンをもって数字と向き合っていると、隣に座っている少女がしみじみとした口調で話しかけてくる。

 話しかけてきているのはわかるが勉強に集中させてもらいたい。

「ゆーくん聞いてるー?」

「……あなたももう受験なんだし勉強したらどうかなと思うんですけど」

「いやー、面倒くさいしなるようになるでしょって」

「お前マジで痛い目見るぞ」

 とは言いつつ常に学年一位を取っているような奴だ。

 どうせ受かるんだろうなとは思う。

 この頭の良さだったらもっと勉強して上のレベルの学校に行けるのではないかと思うのだが、何故だか僕と同じレベルの学校に行こうとしている。彼女曰く「勉強するのが面倒だし近いほうがいいからなあ」だそう。

「……地頭がいい人は楽でいいよな」

「えへへありがと」

 若干皮肉を込めて言ったのだが、効いていないなと悟る。

「ならば地頭がいい私が勉強を教えてしんぜよう」

「何様ですかあなた」

 皮肉が効いていないどころか逆に勉強を教えてこようとしてくる。

 頭がいい人に教えてもらえるのはありがたいのだが、なんとなく言い方に腹が立って言い返してしまう。

「まあまあまあ、それよりどこか分からないところある?」

「……ここの図形の問題」

「なるほど……」

 何を言っても暗い空気にしてこないあたり、やはりコミュ力が高いんだなと感じさせられる。

 勉強もできて人と上手に話せて顔もかわいい、こんな少女が僕の近くにいても本当に大丈夫なのかと思ってしまっても仕方がないだろう。

「そうだねー、ここの角度までは求められてるし、こことここは角度が同じになるからー」

「あー…… そしたらこの長さも分かるから答えも求まりますよと、なるほど」

「それで合ってるはず! 求めないといけないところはちゃんと求められてるしゆーくんも地頭はいいと思うんだけど」

「こんなんで地頭がいいとか言わないだろ」

「んー、私っていう比較対象が居るから相対的にそう感じるだけだと思うよ」

 本当に自己肯定感が高いなこの幼馴染さんは。

 にも関わらず過ぎた評価もしていないし嫌な気もしない。

(……本当にこんなところに居てもいい奴なのか?)

「……急にじろじろ見てこないでよ」

「え、ああ悪い」

「……ゆーくん大丈夫? なんかぼーっとしてる?」

「熱もないし体調が悪いわけではないから大丈夫だ」

「……ならいいんだけど。勉強のし過ぎで体壊して受験できなくなったら大変なんだからね?」

「んーまあそこは気を付ける」


「本当に…… ゆーくんと一緒の学校いけなくなったらどうすればいいのよ」

 風の音にかき消されそうなぐらいのそんな言葉が聞こえてくる。

 この少女が僕と同じ学校に行きたいと思ってくれている。そう思うと卑屈な考えはどこかへ飛んで行ってしまった。

 こんなに話をしている場合ではないな、と右手に握っているペンを動かす。


「……ばか」

 誰にも聞こえないような声で、彼女は甘い罵倒を口にした。

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