人生は、ヘソで決まる
かるびの・いたろ
第1話
私のヘソはへこんでいる。
親指の第一関節のところまですっぽり入る。
ヒトにこれを話す。相手は持ち主の腹づつみがうてそうなまん丸な腹と顔を交互にみくらべる。そして、あたかもこの世の真理をひとつ、得心した表情をする。
冗談じゃない。
子供のころは人並みに細かった。それでもヘソは腹の奥にひっこんでいた。
私は木村屋のアンパンに同情を禁じえない。あれはやたらと真ん中のへこんだところから桜の塩漬けをほじくりかえされる。
幼いころをおもいだす。おなかをだして冷やしているとおこられた。雷さまにおヘソをとられるという。いまでは通じない。
桜の塩漬けをほじくりかえされているアンパンはまるで雷さまにおヘソをとられている自分にみえる。
いまだにヘソはアマテラスオオミカミとして私のおなかの天の岩戸の奥に鎮座している。
動く気配はない。
意を決し、アマノウズメノミコトの代わりに腹踊りも試した。家族のやんやの喝采を浴びた。ヘソはヘソ界の深窓の令嬢としてすましかえりでてこない。
もはやおヘソさまをひっぱりだすには雷さまをムコにむかえるよりあるまい。
アマテラスなら雷さまとの合コンも余裕だ。でもドリフのコントの高木ブーみたいな雷さまが来たら微妙だ。
腹踊りの女と高木ブーの合コン。文字通りの電撃結婚。
電撃というからには、雷さまの方も『うる星やつら』のラムちゃんみたいにビキニが似合う美少女じゃないと納得しない。腹踊りの女じゃなぁ。破談だ。破談。こうして私は一人にもどる。やはりヘソは人生を左右する。
人生は、ヘソで決まる かるびの・いたろ @karubino
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