第5話 ゼロの能力者

魔王城の最奥、漆黒の大広間。重厚な玉座に腰掛けるのは魔王軍の司令官、悪魔王ガイアス。その鋭い金色の瞳が、目の前の水晶球を覗き込む人魚族の占術師マリーンを捉えていた。


「マーリン、占え。例の勇者アルベルトの行く末をな」


「御意」


マーリンは静かに目を閉じ、長い銀髪を揺らしながら水晶に手をかざす。水晶球が淡い青白い光を放ち、波紋のように揺れた。やがて彼女の表情が凍りつく。


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「……勇者に付き添いしゼロの能力者が、魔王軍に甚大なる被害と損害、破壊と混沌を生み出すであろう……」


「ゼロの能力者?……何だ、それは」


ガイアスの声が低く響き、広間に緊張が走る。マーリンは震える指で水晶を撫でながら答えた。


「私も聞いたことがありません。おそらく……固有のスキルでしょう。300年間、生きた私ですら……」


ガイアスの眉が僅かに動く。


「……面白いな。マーリン、魔王図書館の禁書庫を調べろ。ゼロの能力者とは何か、詳細を突き止めろ」


「かしこまりました……」


マーリンが深々と頭を下げると、ガイアスは長く鋭い爪を玉座の肘掛けに立て、ギリリと音を立てながら思索に沈む。


「ゼロの能力者……勇者アルベルトよりも、そいつのほうが危険というのか? ぽっと出の勇者など、どうでもよいが……この“ゼロ能力者“とやらには、警戒せねばなるまい」


ガイアスはとてつもなく、嫌な胸騒ぎがする。直感で、すぐに対処すべきだと判断した。やがて、ガイアスは冷たく微笑み、静かに命じた。


「反逆の戦士バルドルを呼べ」


側近が膝をつき、恭しく頭を下げる。


「御意、すぐにお呼びいたします」


しばらくすると、重厚な扉が開かれ、堂々とした体躯の男が姿を現した。長い漆黒のコートに身を包み、鋭い眼光を持つ戦士。その名はバルドル、かつて王国の英雄と謳われた男でありながら、絶望の果てに魔王軍へと身を投じた反逆の戦士である。


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「……ガイアス様、御指示を」


「勇者アルベルトの一行を追いかけ処刑しろ」


反逆の戦士バルドルは冷徹な瞳を光らせ、わずかに口角を上げた。


「勇者討伐任務……久しぶりですね。だが、それだけではないでしょう?」


ガイアスは満足そうに頷き、付け加えた。


「“ゼロの能力者”そやつが今回の標的だ。勇者アルベルトに付き従う者らしい」


反逆の戦士バルドルはその名を反芻(はんすう)し、静かに目を細める。


「……ゼロの能力者、か。私も聞いたことがございません。」


「我々もだ。だが、マーリンの予言によれば、そやつこそが我が軍に甚大なる被害と損害を与え脅威になるという」


「ほう、それは楽しみだ。ならば、そいつを仕留めるまでの過程……じっくり楽しませてもらうとしましょう」


反逆の戦士バルドルはニヤリと笑い、踵を返した。


「ならば、出発の準備をいたします。新米の勇者とその男の力が、どこまで通用するのか、じっくり試させてもらうとしましょう」


その姿を見送りながら、ガイアスは低く呟いた。


「英雄同士、人間同士、殺し合うがいい……」


___________________________


一方、王国の玉座の間。


王は深く玉座にもたれながら、静かに窓の外を見つめていた。


「ゼロの能力者をもつ あの男………」


彼の表情には複雑な感情が滲む。


「この世界を救う救世主となるのか……それとも……」


沈黙の中、王は深く息を吐き、そっと目を閉じた。


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