あの時、いいと思っていた

ちか

ぬるま湯

あの時、ここに誘ったときはいいと思っていたんだ。

ほんとにあの時は心の底から君を救ってやりたいと思って誘ったんだ。

確かに私にメリットがあるに越したことはないんだけど。


そこにいた君はやめたいと言っていたよね。

だからやめてこっちにおいで、私はここがその時とても満足していたから、君もきっと満足するだろうと。ただ、やりたいことや夢があるなら、そっちに行けばいいとも行った。夢はかなえられる自信があるならかなえた方がいい。


いろんな葛藤もあっただろうがこっちに来てくれたね。ありがとう。私もうれしかった。


ある時君が、別の場所に行くことをほのめかした。

少し悲しかった。私にはその時はわからなかった。もやもやした。


近くで見ていると、昔見ていた姿と違う君に見えた。

うわべだけの同調、一見して調子がよさそうに見える。


あそこにいたとき培われた技術かと思った、社会に出ることにおいて、それはきっといいことなんだと思うことにした。うわべを繕わないとうまく生きられないことは知っている。誰しもどちらの面も知っているはずだ。


ある人がみんな賢いから、分かってるだろうけど、って言っていた。刺さった。

みんな賢いんだ。すっかり自分本位になっていた。みんな分かっているんだ。


ふとおすすめされた、人事の動画を見た。やっとわかった。もやもやが晴れ渡って、違う靄になった。ここがいいと思ったのは、居心地がいいだけだった。成長意欲はなし、ただ楽なだけだ。


中間層がいないのは、逃げ切りできる人と逃げ切りできない人の差だ。逃げ切りできない人は、適度なタイミングで見切りをつけているんだ。逃げ切りできる人は、労力を使って成長しなくていいんだ。それを見て下はさらに育たない。育たなくていい環境に甘んじてのんびりする時間は人それぞれ、人生を考えたときこのままでは成長できないことについに気づいてしまう。

そうか、君はもうそれにもう気づいていたんだ。


あの時、ここに誘ったときはいいと思っていたんだ。

今の私だったら、あの時の君を誘うだろうか。君にはきっと才能がる。文才もある。あの会社はどうだと推薦すればよかったのか。私の代わりにあの会社に行ってくれと言えばよかったのか。


今の私は、もしかしたらあの会社に入れるだろうか。もしくは、何かが当たって独り立ちできるだろうか。どの道も甘くない。だけどどの道にも足を出すことはできる。ここもその一つ。何かが咲くことを願いつつ、後ろ盾があるこのぬるま湯がぬくくて抜け出せない。


そろそろ、人生の選択をしなければならないときが近づている。

いや、選択をしなくてはならない。

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