魔法使いダリー

コーサク

第1話 序章

 アカウント名『魔法使いダリー』私のSNSでのユーザー名だ。


『ダリー』は若者達がよく使う「だりぃ」から取った。面倒くさいとか、気怠いとかいう言葉。私は案外この言葉が好きだ。確かに世の中は「だりぃ」ことで溢れている。


 通勤ラッシュ、サービス残業、愛想笑い、夫婦喧嘩に週末の家族サービス。サラリーマンって、よく40年近く我慢して生きていると思う。「だりぃ」こそ、大人がもっとも口にするべき言葉だと思う。


 なぜ私がSNSをやっているかというと、魔法をかけてもらいたい人に、寿命と金を代償に、魔法を与えているからだ。


 バカバカしいと思っただろう?当然だ。9割は信じていない。だけど本気で、寿命と金をくれてもいいから魔法がほしいという人間が、残りの1割程にはちゃんといるのだ。


 魔法の依頼はDMで受ける「近所の住民が、ゴミの集積日や、分別を守る魔法」とか「鳩が寄り付かなくなる魔法」など、正直、魔法を使うまでもない案件ばかりだ。うんざりだ。


 それでも依頼を受けた相手の1部には、魔法のビフォー・アフターを記録して、動画や写真をSNSに投稿したりする。ただし顔や個人情報は伏せる。私は映らない。匿名性は厳守だ。


 信じる者も笑う者もいるが、今やフォロワーは1万人を超えた。

「魔法使いダリー」は、少しづつ世間に知られ始めている。


 私は本物の魔法使いだ。1000年以上生きている。寿命は人からもらって生きながらえている。


 金などなくても、魔法でどうにでもなる。だけど私は、電気もガスもあるこの便利な現代の生活が気にいっている。

 火や氷の魔法を使えば冷暖房や、調理などもできるが、疲れるし「だりぃ」


 魔法使いといえば、森の中の妖しい建物に住んでいるイメージだと思うが、私は池袋の1DKの賃貸マンションに1人で住んでいる。

以前は森の中の妖しい建物に住んでいたが、魔法が欲しいクライアントに会うのに不便だし、現代人的な生活ができないので、都会に引っ越してきた。


 マンションは私名義では借りられないので、唯一の仕事仲間の高橋和樹君に借りてもらっている。彼にはSNSも手伝ってもらっているし、魔法を悪用するような人には与えられないので、事前調査の仕事をしてもらっている。


 魔法は誰にでも与える訳ではない。与える責任ってやつも1000年も生きてりゃ、少しはわかるようになるものだよ。


 和樹君は30歳ぐらいで、身長は高く、スタイルもかなりいいし、かなりイケメンだ。事前調査なので、和樹君がクライアントに自分が何者か明かすことはないが、女でも男でもクライアントと接する際に、和樹君はあまり警戒されない。顔がいいからだろうか。


 事前調査が上手くいくように、虫や動物に化ける魔法も和樹君には与えている。


 先週から和樹君に事前調査を依頼している。クライアントが欲しい魔法は「上司から何か言われても、気にならなくなる魔法」とのことだ。最近はそんなのばかりだ。寿命3年と、100万ぐらいの内容か。

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