守る窃盗団
@shibakazu63
守る窃盗団
守護・警護・保護とは、一言でいえば守ることである。そんな『守り』を生業(なりわい)とする人々がいる。彼らは五人でチームを組み、それぞれ互いをサーチャー(捜索者)、アイピー(情報提供者)、サイエンティスト(科学者)、ドライバー(操縦者)、ガーディアン(守護者)というコードネームで呼び合っていた。そして、彼らにミッションを伝達する顧客との仲介人、クライアント(依頼者)と呼ばれる者がいる。だが、彼ら五人はクライアントと直接の面識はない。いつも隠れ家のスピーカーから一方的に変声機を使った依頼内容が流される。主な任務は主要人物の守護・警護・保護であるが、今回の守りの対象は人ではなかった。目的の邸宅に赴(おもむ)くと、そこには一人で暮らす老婦人がいた。いや、正確には一人と一匹の犬がいた。彼女いわく、自分の寿命は長くない。独り身なので愛犬に遺産相続の手続きを終えているという。問題は、その額が一千万ドルを超えており、それを嗅ぎつけた遠縁の親戚だと名乗る者に犬が盗まれるというものだった。サーチャーは、その怪しい遠縁者に話を付けることを提案するが、すでに脅迫めいた文書が送られてきているという。相手が強行手段に出る前になんとかしたいが、時は既に遅く犬の姿が見えない。ガーディアンがいち早く気付き、窃盗犯を確保していた。その人物を尋問すると、ある有名な窃盗団を臭わせる文句が出てきた。この時、巷(ちまた)を騒がせていたのが、世界中に出没するというネコ科の五大窃盗団(ライオン・トラ・ヒョウ・ジャガー・チーター)であり、捕縛した人物がヒョウの刺青(いれずみ)をしていたことから、『Panther』の一味であることが発覚し、五人は本格的に愛犬の守りを開始する。が、ここで浮上した問題は、組織を潰さなければこのミッションが長期に及ぶこと。彼らは検討した結果、ガーディアンを犬の護衛につけて、残る四人で組織の瓦解に乗り出した。サーチャーとアイピーにより、アジトの図面や幹部などの組織図を入手したものの、侵入と脱出経路を確保するには、最低二台の車両が必要となる。侵入には、盗難車両と偽って運搬するための積載量4トンクラス、箱型の中型トラック。その中には、脱出用にチューニングされたスポーツカーを格納している。内部への侵入はドライバーとサイエンティストのみで、サーチャーとアイピーは外部からの指示役である。外部サポートによって、アジト内にサイエンティストが独自開発した細菌兵器を設置し、その間にドライバーが、そのアジトを仕切る幹部と交渉に臨んだ。細菌兵器の存在を知った幹部は、アジトに仕込んだ起爆装置を作動させ、混乱に乗じて逃走。サイエンティストとドライバーもやむなく脱出用の車で爆発までにその場を離れ、幹部を追跡する。時速200マイル以上が出せるようチューニングした車に幹部はあっさり補足される。一方、愛犬の護衛を任されたガーディアンは犬の散歩に奔走(ほんそう)されていた。幹部の部下がペットを強奪しようと、あらゆる場所で待ち伏せていた。やがてアジトが爆破され、幹部拘束の知らせを聞き、部下も撤収した。今回の守りの費用は、車だけでも十万ドル以上だが、老婦人から愛犬に当てた遺産一千万ドルがそっくり付与された。「恥ずかしながら、この歳になって、お金より大切なものが何か気付かされたわ……」——後日、クライアントより五人への報酬が支払われたが、一人だけ配分の多い人物がいた。彼はクライアントの仕事を兼任しており、他のメンバーもそれを知らない。そして、ネコ科の五大窃盗団と称される一大組織『Panther』の大本でもあった。つまり今回の仕事は守り屋と窃盗団、どちらに転んでも彼に一定の取り分が振り当てられたのだ。四人が立ち去った隠れ家で元窃盗団のボス、もといクライアントは言う。情報は管理を徹底すれば最強の武器になる。
完
守る窃盗団 @shibakazu63
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます