カレーに生卵をトッピングするのは有りか無しか

白鷺雨月

第1話 カレーに生卵をトッピングしますか?

 私は友人の田中香織たなかかおりとショッピングの帰りにカフェに立ち寄った。

「ねえ、玉子たまご聞いてよ」

 香織はわたしのことを玉子たまごと呼ぶ。

 私の名前が玉川沙都子略して玉子たまこ、それがさらに訛って玉子たまごとなった。

 香織とは高校時代の同級生だ。

 十六歳のときに出会い、それから十年のつきあいになる。

 今でもつきあいのある学生時代の友人は香織ぐらいのものだ。

「それがさ、悠斗ゆうとったらカレーに生卵をかけたんだよ。もう気持ち悪くて別れたわ」

 香織は私が聞くと許可したわけでもないのに、ぺらぺらと喋る。

 こういう押しの強いところが香織にはある。

 でも、もし香織がいなければ私は休日はずっと部屋に引きこもる。

 こうして外に連れ出す香織がいなければ私はただの休日ひきこもりオタクなので、たぶん感謝したほうがいいのかも知れない。

 香織の話を聞くのは私を外に連れ出してくれる彼女への代金だと思えば安いものだ。

「カレーに生卵って有りか無しかってこと」

 私は相槌代わりに香織に質問者してみる。

「無しよ、無しよりの無し」

 香織は丸い顔の前で左手のひらを小さく横に振る。

 香織は女の私から見てもかなり可愛らしい。それに胸も大きい。

 いわゆる男子が好きなスタイルをしている。

 それ故か、香織は昔から彼氏が途絶えたことがない。

 それに比べて私は産まれてこの方二十六年彼氏のかの字もない。

「なんで? 温泉玉子とかあるじゃない」

 私は香織に訊く。

 カレーに生卵をトッピングする人がいてもべつにいいんじゃないかと思う。

 私はそんなトッピングあることを初めて知った。

 そう言えば温泉玉子もトッピングするから、有りと言えば有りなのでは。

「いや、生卵はないよ。だってあの白身どゅるどゅるがキモいもん。なんかエロいし」

 どゅるどゅるのところだけ香織は巻き舌で言う。

 はて、それにしても何故白身がエロいのか。

「どうして白身がエロいの?」

 気になるので私は香織に聞いてみた。

「それはね……」

 香織は私の耳元で囁く。

 衝撃の事実に私は頭がくらくらした。

 あまりの衝撃のため、私は忘れる事にした。

 しかし、彼氏がカレーに生卵をトッピングしたぐらいで別れるなんて、香織にとってつきあうとはどういうことなのだろうか。

 交際したことがない私には分からない未知の領域だ。


 

 午後五時に香織と別れた私は電車に乗り、自宅マンションに戻る。

 一人暮らしを始めて四年住んでいるこの部屋はすっかり私の匂いが染みついている。

 私はこの日の夜はレトルトカレーを食べることにした。

 カレーに生卵をとトッピングしたらどんな味になるか、気になったからだ。

 冷凍ご飯をレンジで温める。

 その間にレトルトカレーを湯煎する。

 ご飯が温まったので皿に盛り付ける。

 あちちと一人で言いながら、鍋からレトルトカレーを取りだしす。

 封を切るときのとびちりに気をつけながら開けて、皿にご飯にかける。

 そして冷蔵庫から生卵を取り出きて、割り入れる。

 カレーの茶色に生卵の黄色がなかなか映えると思う。

 一瞬インスタグラムに載せようかと思ってが、あまりの寂しさに思い留まる。


 私は生卵をトッピングしたカレーを持ち、リビングに向かう。

 折りたたみの机の上に置き、いただきますと言う。

 無音だと寂しいのでサブスクでみている悪役令嬢アニメを再生する。

 悪役令嬢といっても皆そんなに性格は悪くないと思う。それよりも突然婚約破棄する王子のほうがどうかしているのでは。

 そんなことを考えながら、私はかちゃかちゃと生卵とカレーを混ぜる。黄色と茶色のコントラストがなかなか食欲をそそる。

 一口食べて見て、あれ結構美味しいと思う。

 カレーのスパイスの辛味を玉子の黄身がマイルドに包み込む。

 何とも言えない風味だ。

 香織はどゅるどゅるが気になると言っていたが私はそんなに気にならない。

 カレーに生卵をトッピングするのは私は有りだと思った。


 カレーを食べきった私は皿を洗い、片付ける。

 今度はお店でカレーに生卵をトッピングしてみようかなと思った。

 私は寝る前にXにカレーに生卵をトッピングするのは有りか無しかとポストした。

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