ダンジョン逃亡記

芦屋 学

プロローグ

篠原翔馬は、大学三回生の大事な時期に肩を故障した。


投げるたびに、鈍い痛みが走る。

それでも誤魔化しながら続けてきたが、

ある日、ボールが指から抜け落ちた。


それきりだった。


野球に打ち込んできた時間が、

突然、ぽっかりと空いた。


昼はパチンコ屋に通い、

夜は雀荘に顔を出す。


先輩に誘われ、覚えただけのはずだった。

気づけば、勝ちよりも負けの方が増えていた。


金は減り、

借金が膨らみ、

追い打ちのように奨学金の打ち切り通知が届く。


逃げ場がなくなった頃、

パチンコ屋で知り合った常連の男に声をかけられた。


「ええ仕事がある」


詳しい話はしない。

条件も曖昧だった。


それでも、翔馬は縋った。


他に、選択肢がなかった。


その言葉に縋るように、

翔馬は一年の休学を決めた。


この決断が、

どこへ連れていかれるのか。


その時の翔馬は、

まだ知らなかった。

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