どうやら聖夜のようです。
パ・ラー・アブラハティ
もうこれが終われば年越し。
気が付けばカレンダーは捲れて、12月25日になっていた。
ついこの間まで、11月だった気がするのに外を見れば寒空が広がっていて、木々も葉を落とし寒そうに震えている。
浅く息を吐けば白く立ち込める呼吸が雲となって、空へと舞い上がっていく。コートの襟を頬ぐらいまで上げて、寒さを凌ぐ。ポケットに入れたカイロが温もりを与えてくれる。
家では妻と子供たちが楽しそうに、部屋の飾り付けをしてクリスマスパーティーの準備をせっせとしている。その中で私が仰せつかった任務は「予約してあるケーキの受け取り」だった。
車の免許を持っているのが私だけだから、という理由で拝命した訳だが、車で行くとケーキが崩れてしまう危険性を考慮し、私は歩きで40分先にあるケーキ屋に行くことにした。
しかし、やはり車で行けばよかったな、と少しの後悔を抱えながらクリスマスの空気に飲まれた大通りを歩く。
この大通りは色鮮やかにイルミネーションに装飾れていて、夜になれば美しい景色が広がってカップルや家族で賑わう。
私も何度か家族を連れてきて、一緒に楽しんだことがある。子供たちがイルミネーションを見て、とても興奮していたのは、昨日の出来事のように鮮明だ。
今年は私が仕事で忙しく連れてきてやれなかったが、子供たちは文句ひとつ言わずに大人しくしてくれて、良い子に育ったなと親バカながらに思っていた。
もし、時間が出来たら今年も連れてきてやろう。少し季節外れかもしれないが、このイルミネーションは長いことやっている。
そんなことを考えながら人混みを掻き分けていたら、パラパラと空から白い粉が降り始めた。皆が一様に空を見上げて、降り始めたホワイトクリスマスに感嘆の声をあげる。
「寒くなってきそうだな……」
私はポケットから手を出して、ぽつりと乗った雪を見ながらひとりごちる。
足早にケーキ屋に急ぎ、店内で忙しくなく動いているサンタクロースの店員さんから予約していたチョコレートケーキを受け取る。
「ハッピーメリークリスマス」
「ありがとうございます」
私は頭をぺこりと下げ、店を後にする。外はもうすっかり白景色に染まって、地面は雪の絨毯が敷かれていた。
足音がトン、タン、とアスファルトを踏みしめる音ではなく、サク、ギュム、と雪を踏みしめる音に。足を滑らせてしまわないように、一歩、一歩、確かに歩いてビニール袋を持つために外に晒されてる指が悴む。
早く家に帰って子供と妻にケーキを持って帰ってあげなければ、とほんの少しだけ歩くスピードを上げていく。
雪が段々と強さを帯びてきて、視界がホワイトアウトしていく。ケーキを抱えて、家に辿り着いた頃には私は雪で真っ白に染まって雪だるまのようになっていた。
「ただいま」
「パパ〜! ケーキ買ってきた!?」
「あぁ、ほら買ってきたぞ」
「ママ〜! ケーキがきたあー!」
「あなた、お帰りなさい。って、あら雪降ってきたの?」
「さっきまではパラパラとだったが、吹雪いてきたよ」
「お疲れ様。ご飯出来てるから食べましょ」
出迎えてくれた妻と子供はニコニコと楽しそうにしていて、ケーキをリビングに持っていく。
私はコートに積もった雪を手で軽く払い、手を洗ってから暖房が効いたリビングへ行く。鼻を撫でる照り焼きの匂いが私を包んで、子供は今にでもかぶりついてしまいそうだった。
3人で机を囲み、グラスに注がれたシャンパンを掲げる。
「ハッピーメリークリスマス!」
どうやら聖夜のようです。 パ・ラー・アブラハティ @ra-yu482
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます