サンタさんを待ち続けて
あるて
サンタさんを待ち続けて
「ねぇ! 良い子にしてたらサンタさんがプレゼントをくれるって本当!?」
「本当よ。家のお手伝いをしたり、お勉強をしたり。良い子にはクリスマスにサンタさんが枕もとにプレゼントを置いていってくれるのよ」
子供心に胸が高鳴る。お母さんにおねだりしてもずっと「また今度ね」って言われ続けて幾星霜。
うちは母子家庭でお母さんは1人で一生懸命働いているので駄々をこねるわけにもいかない。
だけどサンタさんがくれるというのなら話が早い!
その日から人が変わったように家の手伝いを積極的に行い、毎日勉強をするようになり、あれだけ好きだったテレビゲームも1日1時間という約束を守った。
お母さんはすごく喜んでいた。
これだけお母さんも喜んでいるし、きっと良い子になれているだろう。
これでサンタさんからのプレゼントはほぼ確定だろう。
どうかレ〇ブロックのセットをください!
ワクワクしすぎて朝まで眠れなかった。
サンタさんは来なかった……。どうして。良い子にしてたのに。
お母さんに涙ながらサンタさんが来なかった旨を報告するとよしよしと慰めてくれた。
「きっと眠っていなかったからでしょ。サンタさんは眠っている間にこっそりプレゼントを置いていくんだから」
それは思わぬ盲点だった!
くそう、来年こそはリベンジだ!
そして迎えた次のクリスマス。
当然良い子でいるのは続行したし、今日は朝の4時から起きてたからもう眠くて仕方ない。
これならきっと朝までぐっすりだろう。
朝、目が覚めるなり飛び起きて周囲を確認した。何もない。
泣いた。
サンタさんに裏切られたような気分だ。
「あーきっと靴下を用意していなかったからだわ。サンタさんは枕もとの靴下にプレゼントを入れるそうよ」
そんなルールまであったのか!先に言っておいてほしかった!
よし、次こそは!
でも来年は中学だ。さすがにもうレ〇ブロックという歳でもない。
次はゲームソフトだ。それならそんなに大きい靴下を用意する必要もあるまい。
すっかり慣れた家の手伝い。今では料理を作るのはもっぱら僕の役目。
勉強だって毎日3時間はやるようになった。
これだけ良い子にしているのだからちゃんとルールを守れば今度こそ間違いないだろう!
しかしやっぱり今年も何もなかった。なぜだ!
同級生は最新機種のゲーム機をプレゼントに貰ったと自慢していたのに!
ソフトの一本すらもらえないなんて……。こんなの不公平だ!
「ちゃんとサンタさんへの手紙は書いて入れておいた? 何が欲しいか分からなかったんじゃない?」
言われてみればその通りだ!てっきりサンタさんは人の心を読めるものだと勝手に決めつけていた。
不公平だなんて思ってごめんなさい。次はちゃんとお手紙書きます。
料理の腕はプロ並みになり、学業の成績は全教科満点をとるほど良い子にしていた。
サンタさんへの手紙を書いた。靴下も用意した。最近では夜の10時には寝てしまう習慣がついているのでそこも大丈夫だろう。
またしても彼は来てくれなかった。ここまで万全の用意をしたというのに。
打ちひしがれていると母が優しく抱きしめてくれた。
「あなた、窓のカギを開け忘れていたんじゃないの? サンタさんは泥棒じゃないからカギがかかっていたら入ってこれないわよ」
しまったー! 確かにその通りだ! いくらサンタさんと言えど窓ガラスを割って入ってくるわけにもいくまい。
よし今年こそは!
良い子ムーブはもちろん継続。最近では家にいる間は家事か勉強、どちらかしかしていないほどだ。
もはや厳かと言えるほどに粛々と進めるサンタさん召喚のための儀式。
靴下、窓の鍵、そして手紙。今年は発売されたばかりのゲーム機本体をお願いした。
そして今年こそはと祈りを込めて眠りについた。
絶望に打ちひしがれた。ここまで完璧に儀式をこなしてもダメだというのか……。
「去年と同じ靴下だったからじゃない?サイズが合わなかったのよ」
ジーザス! 去年はゲームソフトだったから小さめの靴下だった! 本体など入るはずもなかったのだ……。
なんとか靴下に収めようと苦労したであろうサンタさんの姿を想像して申し訳ない気持ちになった。
次は大きな靴下を用意した。そんなもの売っていないので編み物を勉強して作った自作品だ。
そして僕は地域で一番偏差値の高い高校に進学。家事も完璧。これ以上良い子などいるものか!
儀式は完璧。靴下のサイズも問題なし。よし、今年こそはいける!
なぜだ。神は我を見捨てたもうたか!
「ちゃんと子供部屋はここだとわかるようにした? 飾りなんかをつけてちゃんと子供がここにいるよってわかるようにしないと」
そんなに複雑な儀式が必要だったのか!
さっそく豆電球とコードを買ってイルミネーションを自作。飾りもより目立つようにとラオコーンの群像を模した自作の彫刻を窓の外につるした。
近所でも評判になるほどの出来だ。
そしてもうすっかり手馴れてきた召喚の儀式を済ませ、静かに床につく。
どうしてなんだよおぉぉぉぉぉ!
わたしの何が悪いというのだ!? 顔か? イケメンこそ正義とか言うけど、サンタさんもイケメンしか選ばないのか!?
「家でだけ良い子でいてもだめよ。学校でも良い子でいないと」
良い子度がまだ足りなかったというのか!
さっそくわたしは生徒会長選挙に立候補し、見事当選した。会長職もバリバリこなし教師陣からの評価も上々。
家ではもはや僕が全ての家事をこなし、勉強も今では大学クラスの内容を学んでいる。
これで以上完璧な良い子などいるまい!
もう子供だなどと言っていられる時間にも限りがある。今年こそはなんとしてでも!
ひとつひとつの儀式をまるで神主のように厳かに丁寧に執り行い、テレビでも取り上げられるほどの彫刻群を窓に飾り、今年でダメなら諦めようという背水の陣を敷いて夜を待った。そして就寝。
ここまでやってもダメだというのか。
「ごめんなさい、昨日はお母さん仕事を持ち帰って朝までリビングで作業していたの」
くっ! こればかりは文句を言えない。 母が一生懸命働いて僕をここまで大きくしてくれたのだから。
クリスマスに夜なべをしてまで仕事を頑張っている母。考えてみれば僕がサンタにお願いをしているといつもいろんなアドバイスをくれたりして応援してくれていたが、その間も母は休むことなく働き続けていたのだ。そのことに感謝をしたことがあっただろうか。
自分のことばかりを考えて、母への労りの心を忘れていた。これで何が良い子だ。
自嘲気味に笑いながら僕は召喚儀式のための道具を全てゴミ袋に放り込んだ。
こうして僕とサンタとの長年に渡る攻防は僕の一方的な敗北という形で幕を閉じた。
「何言ってんだお前。サンタなんているわけねーだろ。あれは親が子供の寝てる間に枕もとに置いてくれてるもんなんだよ」
僕はとうとう真実を知ってしまった。できることなら知りたくなかった。
まさか……。今までのあの母のアドバイスはなんだったというのだ……。
そしてその年、僕は見事東大に合格した。
「やったわね! ようやくサンタさんがあなたに最高のプレゼントをくれたのよ!」
やかましーわ。
サンタさんを待ち続けて あるて @arte2007
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