真説・閉じ子の伝説

えすとる





徳川政権下の江戸時代中期…。

南蛮渡来を下地とした画期的に進歩した天文学と測量技術によって、幕府や学者などの知識人は、日の本の国がかく弓状に反りかえる地形だということを認知。

我が島国は、火山帯で隆起させた荒猛る大地の産物だと周知されるに至った。


その象徴となったのが、現在、フォッサマグナという呼称で定義される、南関東神奈川・静岡から新潟県を縦断する西縁状の、日本列島ほぼ中央部の地層的裂け目を取り囲む火山帯北部に暮らす人々であった。


とりわけ、当時の徳川幕府お抱えの知識人らの関心を捉えたのが、これら日本のへそに位置する大断層内に集落を構えた人々の大地に対する先祖より伝承された信心ぶりだった。


かの地こそ、現在の岐阜県某山間地に位置する双子谷(ふたごたに)集落地であった…。


***


「…殿!この度の飛騨の国、K藩が所管する双子谷集落視察では、大そうな検分を得ました。それは…」


「何と…、これ、寳来(ひんらい)!この度、帥が連れた加那彼方(カナハルカ)なる求道の老徒が見定めた検分、この国を治むる徳川幕府の公なる認識として、まこと、良いのだな‼」


「ははあ…、怖れながら双子谷なる集落では、室町幕府が世を収める時分より、日の本の国を形作ったへその緒をその地の深きに鎮祀すると公伝された由緒ある功績を持ち得ております」


「然るに、我が日の本の国を裂け隔てていた切れ目を繋ぎ合とめていられたのは、大地の創造主にこの国を引き裂かないようにと、大地への祈念を絶やさなかったとな。我が日の本の大地は、その者たちの長きの渡る功労の故…。と、申すのだな!」



「仰せの通りでございます!加那彼方殿の検分は信に値いたしまするに、我が日の本の荒ぶる大地の上に民が暮らす諸藩諸国は、双子谷集落が大地の鎮魂を旧来より担っておるが故。何卒、その功績に然るべき恩賞をお与えくださいますよう…」


「うむ…、あいわかった!然らば、双子谷の集落を収めるK藩には厚き施しを進呈するとしよう」


かくて…、飛騨山脈西麓の双子谷集落は、時の徳川幕府将軍から日の本の国を繋ぎ合わせた…、現在で言うフォッサマグナ西縁線を鎮魂死守する功労の民たちという勲等を受け、莫大な恩賞がK藩を通じていきわたることになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る