異世界特撮マニア、勇者にダメ出ししまくる
黒咲ましろ
第1話:勇者、変身できないってどういうことですか?
俺の名前は赤坂翔太(あかさか しょうた)。
特撮が好きすぎて、週末は毎回ヒーローショーに通い、スーツアクターの動きすら見分けられるレベルの特撮マニアだ。
そんな俺が、まさかの異世界転生を果たした。理由? そんなの知らん。気づいたら見慣れない空とファンタジー感満載の街並みが目の前に広がっていたのだ。
「……おいおい、これって異世界転生じゃねぇか!」
普通の転生者なら「チート能力!」とか「俺TUEEEE!」とか考えるんだろうけど、俺の頭の中には違うことが浮かんでいた。
「異世界にもヒーローはいるのか……?」
もしそうなら、この世界の変身ヒーローがどんなものか、全力で考察してやろうじゃないか。
⸻
転生して三日目、俺は異世界の王都にたどり着いた。そこで目にしたのは、王宮前で行われている勇者の壮行会だった。
「勇者様! 頑張ってください!」
「魔王を倒してくださいね!」
そんな声援を受けながら、壇上には勇者と名乗る青年が立っていた。
剣を携えた金髪の美形、青いマントに白い鎧、これぞまさに異世界勇者! だが、俺は違和感を覚えた。
「……いや、これ、ただのイケメンじゃね?」
そう、決定的にヒーロー感が足りないのだ。
まず変身しない時点でダメ。
特撮におけるヒーローといえば、変身、スーツ、専用武器がセットであるべきなのに、彼はただの鎧を着た戦士だ。
そして決めポーズがない。ヒーローなら名乗るときにポーズをとるのは常識だろう。しかも「勇者」のくせに名乗りがない。
俺は震えながら、勇者に駆け寄った。
「おい、ちょっといいか?」
「ん? お前は?」
金髪勇者が俺を見下ろす。名前を聞くと、彼は「勇者アルヴィン」だという。
「なぁ、アルヴィン。お前、勇者なんだよな?」
「ああ、そうだが……?」
「変身は?」
「は?」
「だから、変身しないのかって聞いてんの!」
俺の言葉に、アルヴィンは眉をひそめた。
「勇者が変身するわけないだろう? 俺は剣を使って魔王を倒すんだ」
「お前なぁ!! そんなので魔王に勝てると思ってんのか!?」
俺は思わず頭を抱えた。
「ヒーローたるもの、変身は基本だろ! 変身しないヒーローとか、もはやただの武闘派美形キャラだぞ!? せめて名乗りくらいしろよ!」
「名乗り?」
「そうだ! 例えば『光の勇者、アルヴィン!』とか『正義の剣を受けてみろ!』とか、そういうのが大事なんだ!」
アルヴィンはポカンと俺を見つめていた。
「……いや、そんなことしなくても戦えるし」
「違う!! ヒーローってのは戦う前の演出が大事なんだよ! 変身バンク、名乗り、決めポーズ! これがないと視聴者……じゃなくて、民衆の士気が上がらない!」
俺の熱弁に、周りにいた兵士や貴族たちがざわめき始めた。
「な、なんだこいつは……」
「だが、確かに名乗りがあった方が勇者らしいかもしれん……」
「いやいや、変身とか言い出してるぞ!?」
アルヴィンはため息をついた。
「お前、一体何者なんだ?」
「ただの特撮マニアだ」
「……特撮?」
「ヒーローに命をかけるオタクのことだ!」
「……訳がわからん」
呆れるアルヴィンをよそに、俺は拳を握りしめた。
「こうなったら仕方ない。俺がこの世界に真のヒーロー精神を叩き込んでやる!」
この瞬間、俺の異世界転生ライフが幕を開けたのだった。
(第2話へ続く!)
異世界特撮マニア、勇者にダメ出ししまくる 黒咲ましろ @asahi_zen
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