第2話 年末のイベント
家は山の中にある一軒家。
結構くたびれているから、冬に向けてDIYで修理中だ。
素人でも慣れると結構色々なことができる。
水道は。山の湧き水。
水源の周りには、有刺鉄線と網で動物が入り込まない様にしている。
そう動物が入ると、大腸菌などに汚染される。
それに鳥だ。
奴ら水たまりを見つけると、嬉しそうに水浴びをしやがる。
それを見たときには愕然としたよ。
うちの水源だというのに、本当に嬉しそうに……
速攻で網を入手。
ぴっちりと張り巡らして、入れないようにした。
無論、俺は鬼では無い。
取水部分の下流に、水浴び用の池を作ってやった。
俺は心優しいのだ。
だから隙間から入って泳ぐな。
「床暖房とか憧れるんだけどな」
そう言いながら、床下にコンクリートを流し込み慣らして行く。
寒い朝など結露が出るのだよ。
床下にはベタ基礎がなく、土だった。
だから、コンクリートを打設。
書いてあった通り三対二対一で砂利、砂、セメントを底から引っくり返すように角形のスコップで混ぜ合わせる。
そこに水を半分くらい入れて、混ぜ合わせながら堅さを調整する。
物の本に書いている通りならば、砂利はもう一つ多くても良さそうだけど、なんとなくこっちの方が綺麗に仕上がる気がする。
「ああ? 今日はクリスマスか。鶏肉でも食うか」
男一人。別にケーキも必要ない。
家の真ん中。卓袱台の真ん中にろうそくを立ててじっと眺めると、うれしさよりもわびしさの方が多くなる。
「なんだか泣けてくるな」
火を消して、電気をつける。
発電は風力と水力だ。
自家発電は得意なのだよ……
いつもの生活。
これで良い。
一人暮らしも大学の時からだから、もう十七年か……
「淋しくなんかないさ」
つい口にしてしまう。
強がりを言っているように聞こえるだろう。
実はそうだ。
流石に寂しさが募ってくる。
なぜだろうなぁ……
関わりが鬱陶しいとか言わずに、もう少し、人と関われば良かった。
もう遅いかもしれないが……
―― あの日。おれは鉱物資源の探査のために、山の廃坑を調査していた。
本当はチームで行くのだが、先日取ったサンプル。
採取場所が良くなかった気がしたのだ。
「隆起の方向がほぼ縦だから、過去の発掘資料はこれだろ。やっぱりあそこじゃ駄目だったんだ」
俺は危険を顧みず奥へと入った。
今まで崩落をしていないから大丈夫。
なんの根拠もない自信を信じて。
そしてそれは、正解だったのだが、突然の地震が襲ってきた。
「どわぁぁぁっ」
まるで瓶の中に入れられてシェイクされた様な揺れ。
震度四とか五どころではない。
初めての経験で気を失い、目が覚めたときには、妙な熱気に気がついた。
なんだこれ。暑いな。
出口である上階層に上がるにつれて熱気は強くなる。
山火事でもあったのか?
出てみると一面が燃えていた。
「なんだこりゃ」
火を掻い潜り出ていこうとしたのだが、昼のはずなのに真っ暗な空から雨が降りだした。
「こりゃいかん」
また穴に戻る。
それからしばらく、持っていた非常食とペットボトルの水で穴の中にこもる。
そして、肌寒さを感じ始めて外に出た。
まだ外は暗く、雨がずっと降り続いている。
火は消えたようだ。
俺は常時持っている折りたたみ傘を取りだして、雨の中へ出ていく。
ヘッドライトの明かりを頼りにして山を下る。
乗ってきた車の様子が気になる。
車は横倒しで、なぜか斜面を十メートル以上駆け上っていた。
木が生えていたはずだが、殆どが山頂に向けて倒れていた。
使える物を車から引っ張り出して、車載していた台車に乗せる。
未舗装の道をガラガラと下っていく。
途中で寸断されている道。
橋は落ち、跡形もない。
何があったのかは判らないのだが、とんでもない事が起こったのだろう。
途中からちらほらと家が出てきたが、家だったものとなっている。
それは、天井が無くなり骨組みだけ。
周囲には困ったことに、人だったのか判断がつかない物体が……
俺はそれにもめげず下っていく。
あれから、いくつかの廃墟を見て回り、なんとか使える物資や食料を集めて、此の山の家を見つけた。
山間にあり、風の当たり方が弱かったのか、生き残っていた建物。
放棄されていた、別荘地を見つけた。
街へ降りて散策。
地下には、無事だった車があったり、道具や缶詰があった。
「これなら生き残った人も居るだろう」
そう思ったのだが、熱線と爆風。そして凶悪な津波があった様だ。
そう、この半年間。誰も見ていない。
長く一人暮らしをしていたのだが、誰もいないとなると人恋しさが募る。
気温が下がり始めている。
冬が来る前に準備をしなければ。
予想通りなら長い冬となる。
気持ちばかりが焦る。
俺の好きなキャンプはたまにするから良いんだ。
強制的なサバイバルは楽しくない。
「誰かいないかぁ」
声をかけて回るのだが、返事はない。
冬がそこまで来ている。
長く暗く、何時終わるとも知れない。
いや、メキシコユカタン半島の隕石では十数年とか読んだな。
被害状態から予想をすると、多分隕石の落下があった。
巻き上げた埃は雲を作り、日の光を通さない。
これから先、冬が来れば探査など出来ない。
あれほど鬱陶しかった誰かを俺は探す。
誰でも良いから会いたい。
もう冬はそこまで来ている。
「誰か居ないのかぁ……」
俺は泣きながら叫ぶ。
誰かを探して……
今人類は、滅亡の淵にいる。
ぼちぼち、人恋しい季節 ー絶望の淵で彼は願うー 久遠 れんり @recmiya
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