括弧過去
小狸
掌編
己が過去を振り返り、その中の異常行動が記憶として陳列され、就寝前布団の中などで思わず煩悶する時分というのは、誰しもあることなのであろうか。
少なくとも僕は、ある。
現代から
この場合の「おかしい」は、可笑しい――俗に言うウケる、とか、マジ笑える、とかではなく、冗談ではない方の異常性を有していたという意味の「おかしい」である。
僕を良く知る人ならば、分かってくれるのではないだろうか。
学校でも、部活でも、家でも、日常生活を送る上で、僕はどこかの何かがズレていた。
何か決定的な
いやいや、中二病などという言葉もある――その年頃の男児ならではの生き方というのがあったのだろう、と、そう思って下さる方もいるかもしれないけれど、そんな語義の殻では包括しきれないほどに、当時の僕は、やや常軌を逸していた。
具体的な行動を書くと特定されてしまう現代である――差し控えるけれど、中学時代意味もなく理由もなく、感情と衝動を制御できずに教室内を走り回ったりしていた。
それでいて、別に天才でも何でもなかったのだから、もう本当にどうしようもない。ただの「おかしな」奴である。勉強は、中学までは何とか理解できていたけれど、高校からはついていくことができなくなった。というか、僕は自分の異常性を、天才性だと誤認していた節があった。それを高校の時に、是正されたのである。天才であることと、異常であることを、イコールだと思っていたのだ。僕の入学した高校は、進学校だった。そこには、普通でいながらも普通に好成績を収める、普通にすごい人たちがたくさんいた――というかむしろそういう人の方が一般的であり、僕はその中でも、普通であることはできなかった。一気に出鼻を
そこからは、もう落ちぶれてゆくだけであった。学業の成績は落ち、かといって不登校になるわけにもいかず、ただただ異常性を有したまま、僕は第5志望の大学に何とか入学・卒業し、定職に就いた。
一年、続いた。
そこから一年は、続かなかった。
おかしな奴は、正常にならなくてはならない。その機会を失い、彷徨い続けた僕に、社会は厳しかった。いや、当たり前である。だって皆は、ちゃんとしているのだから。普通に仕事に来て、普通に職場でも人間関係を当たり障りなく構築できて、普通に与えられた職務を全うしているのだから。
そう思って、僕は親に内密で、心療内科に行った。
両親は二人とも学校関係の仕事に就いていて、心療内科や精神科といったものを嫌っていた。世間体が悪いからだろう。高校時代は、何度か「自分を精神科に連れて行ってくれ」と懇願したことがあったが、にべもなく却下された。そして叱責された。「お前は健常者だ!」「ちゃんとできるのにちゃんとしないのは怠慢だ!」「それより何だこの模試の結果は!」と、話が違う方向へと転換していった。あの時の、尋常ならざる反応を見るに、きっと両親も気付いていたのではないだろうか。自分の息子が、普通ではない――異常の側に立っているということに。そしてそれは、周囲に知られたくはない。自分の息子だけは、そうではないと信じたかったのだろう。信じる。それは、僕がとっくに、両親から諦めたものだった。
しばらく内緒の通院を続け、心理検査を受けた。
結果は、知能指数こそ平均点だったものの、各能力に相当な偏りが見られる、というものだった。
その日は雨が降っていた。
冷たい雨だった。
クリニックから自宅までは、電車で一駅あるけれど、その日は徒歩で帰った。
心理士からのまとめで、「普通級で過ごすことは、相当負荷がかかっていたと思われる」と記載されていたのを、思い出して。
気付いたら僕は、泣いていた。
(「
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