第6話 イセカイ上等、上等じゃねぇか

 北の砦に辿り着いた時、そこは地獄だった。 城壁は崩れ、騎士たちは絶望に目を染めている。空を覆うのは、山ほども巨大な黒い龍。吐き出される炎が、大地を溶かしていた。


「……あれが災龍。生物の次元を超えた神の化け物……」


 セラフィナが腰を抜かす。 確かにデカい。生物というより、歩く自然災害だ。 だが、俺の心臓は怯えるどころか、かつてないほど激しく鳴り響いていた。


「あぁん? 神だか何だか知らねぇが、随分とお行儀が悪ぃじゃねぇか」


俺は一歩、また一歩と、龍の足元へと歩み寄る。


《 警告:個体差が大きすぎます。勝算は 0.01% 未満です 》


 脳内の無機質な声がうるさく響く。だが、俺はそれを一喝した。


「うるせぇ。……俺には、最強のスキルがあるだろうが」


《 ユニークスキル『タイマン特化:不退転』が発動しました 》

《 敵対個体を『1』と認識。全ステータスが 10 倍に上昇します 》


 さらに、俺は新しいスキルを無理やりこじ開ける。


「おい、トカゲ野郎! てめぇの相手は……この赤城龍平だ! 全員下がってろ、こいつは俺の『タイマン』だ!!」


《 スキル【威圧:番長】が発動しました 》

《 全周囲の恐怖心を無効化し、自身の闘争心を限界まで爆発させます 》


 龍が、初めて俺という「個」を認識した。 金色の瞳が俺を捉え、大気を震わせる咆哮を上げる。


「——吠えてんじゃねぇよ。まずは、挨拶だ!」


 俺は地面を蹴った。 音速を超え、衝撃波が砦を揺らす。 瞬時に龍の鼻先に肉薄した俺は、全身の魔力——いや、全魂の「気合」を右拳に凝縮させた。


「不条理を殴り殺す。それがヤンキーの生き様だッ!!!」


「オラァァァァァァッッ!!!!!」


ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!!!


 王都で見せた一撃とは次元が違う、極光のような衝撃が爆発した。 龍の巨体がひしゃげ、数キロ先まで吹き飛んでいく。 空間そのものが悲鳴を上げ、龍の咆哮は絶叫へと変わり、やがて粒子となって消滅した。


 静寂が訪れる。 俺はゆっくりと着地し、肩で息をしながら、破れた特攻服の袖を捲り上げた。


「……ふぅ。……いい運動になったぜ」


「……倒した……? あの古の龍を、拳一つで……?」


 呆然とするセラフィナと騎士たち。 やがて、地を揺らすような歓声が巻き起こった。 「救世主!」「英雄!」「赤城様万歳!」


 だが、俺はその喧騒に背を向ける。


「……赤城様! どこへ行かれるのですか!? 貴方はこれから、この国の王として——」


「王だぁ? 冗談じゃねぇ。俺は群れるのが嫌いなんだよ」


 俺は振り返らずに手を振る。


「礼なら、あの時の猫にでも言ってやれ。……俺は、俺の自由を探しに行く。この広い異世界なら、まだ俺に喧嘩を売ってくる骨のある奴がいるはずだ」


 俺の目の前には、どこまでも続く地平線が広がっている。 魔法がある。魔物がいる。不条理が蔓延っている。 上等じゃねぇか。


 俺は、唇の端を吊り上げ、ニヤリと笑った。


「——イセカイ上等。さあ、次はどいつだ?」


一匹狼の背中は、夕陽に照らされながら、未知なる荒野へと消えていった。


(完)

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イセカイ上等 ユニ @uninya

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